海水の作用を受けるコンクリートの劣化や基準値、配合とは

種類

海水の作用を受けるコンクリートと海洋コンクリートは、どちらも海水の作用、波浪・飛沫、海水による飛来塩分を受けるコンクリートについての規定です。

構造物の種類によって基準となる仕様書が異なるため、違った呼び方をしています。

  • 海水の作用を受けるコンクリート(建築:JASS5)
  • 海洋コンクリート(土木:コンクリート標準示方書)

海水による飛来塩分とは、一言でいえば潮風です。

風にのって海水からもたらされる塩分のことを飛来塩分と呼びます。

この記事では、海水の作用を受けるコンクリート・海洋コンクリートについて、主な構造物や劣化の内容、基準値や配合について解説します。

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海水の作用を受けるコンクリートと海洋コンクリートに該当する施設とは?

どんな施設が該当するのかを、構造物の立地条件で二つに分けて考えてみましょう

  1. 直接海水に接するもしくは波しぶきを受ける
  2. 直接海水と接しない海洋上や海岸から近距離

1.について、具体的な施設として次のような施設があります。

  • 海底トンネル
  • 海中構造物(海底基礎、海底パイプライン)
  • ケーソン、防波堤・防潮堤護岸、桟橋、

2.について、具体的な施設として次のような施設があります。

  • 海上構造物(洋上風力発電施設、油田プラットフォーム)
  • 海上大気中の高架橋
  • 港湾施設や灯台
  • レジャー施設・水族館、リゾートホテル

1.は「土木=海洋コンクリート」

2.は「土木=海洋コンクリート」or「建築=海水の作用を受けるコンクリート」

に該当しています。

一般的に海水と直接接するものは土木構造物、海水からの飛来塩分の影響を考慮するものが建築物と覚えておいて良いでしょう。

海洋コンクリートは「海水の直接的な作用」と「飛来塩分」を、海水の作用を受けるコンクリートは「飛来塩分」を主なターゲットとしています。

イメージとして、海洋コンクリートという大きな枠組みがあり、その中に海水の作用を受けるコンクリートも含まれると理解しておいても良いでしょう。

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海洋・海水の作用を受けるコンクリートの劣化作用とは?

鉄筋コンクリート構造物において重大な劣化となる、鉄筋の腐食に注意が必要。またコンクリートが化学的作用・物理的作用の両方から劣化作用をうけるのが特徴です。

海水の作用による劣化は、コンクリート構造物が置かれた環境によって劣化作用や度合いに違いがあります。

下の図にその概略を示したので見てみましょう。

構造物に作用する劣化の度合いは、以下の順番となります。

A.干満帯>B.海上大気中>C.海中

意外な感じもありますが、海中は空気がないため鋼材が腐食しにくい。また、海水は凍結するほど下がらないため、凍結融解も起こりません。

海洋・海水の作用を受けるコンクリートの劣化作用の種類は以下の通りとなります。

  1. 鋼材の腐食
  2. 硫酸塩による化学的浸食
  3. 凍結融解
  4. 波による摩耗
  5. 乾燥・湿潤による繰り返し作用

これらの劣化作用に対して、基準値を設けて対策をとっています。

海洋・海水の作用を受けるコンクリートの基準値や配合

海洋・海水の作用を受けるコンクリートには、以下のような特徴があります。

  • 劣化因子の浸透を抑制するために、水セメント比を小さくする
  • 単位セメント量を多くし、密実なコンクリートとする
  • 最小かぶり厚さを大きくし、設計かぶり厚さは最小かぶり+15㎜以上とする
  • 満潮位から上60cmと干潮位から下60cmとの間=感潮部には打継目を設けない
  • 腐食防止の観点から、コンクリート製またはモルタル製のスペーサを原則とする
  • 打設後5日間は海水に洗われないように保護する

海洋・海水の作用を受けるコンクリートで注意が必要なのは、鋼材の腐食と硫酸塩による化学的侵食です。

コンクリートへの「塩分・硫酸塩の浸透・拡散を抑制すること」が重要となり、水セメント比を規定することで劣化因子の浸透を抑制しています。

コンクリート標準示方書(土木)JASS 5 (建築)
水セメント比水セメント比
環境区分生コン工場製品環境区分普通ポルトランドセメント高炉セメントB種
海上大気中45%50%塩害環境45%50%
飛沫帯・干満帯45%45%準塩害環境55%60%
海中50%50%

塩分が鉄筋まで到達するのを遅らせるために、かぶり厚さを大きくとることも有効となります。

JASS 5 (日本建築学会)
環境区分計画供用期間の級最小かぶり厚さ耐久設計基準強度
普通ポルトランドセメント高炉セメントB種
塩害環境短期50㎜
60㎜
36
33
33
30
準塩害環境短期40㎜
50㎜(海中)
30
24(海中)
24
21(海中)
標準40㎜
50㎜
60㎜(海中)
36
33
30(海中)
33
30
24(海中)
長期50㎜
60㎜(海中)
36
33(海中)
33
30(海中)

単位セメント量を多くし、密実な組織とすることも有効となります。

コンクリート標準示方書(土木)
 単位セメント量の最小値
環境区分粗骨材最大寸法 20㎜または25㎜粗骨材最大寸法 40㎜
海上大気中330kg/㎥300kg/㎥
飛沫帯・干満帯330kg/㎥330kg/㎥
海中300kg/㎥280kg/㎥

海洋コンクリートでは空気量を増やし、凍結融解作用に対する抵抗性を高めることも必要な場合があります。

コンクリート標準示方書(土木)
環境区分粗骨材最大寸法
20㎜または25㎜
粗骨材最大寸法
40㎜
凍結融解作用を受ける
恐れがある場合
海上大気中5.0%4.5%
飛沫帯・干満帯6.0%5.5%

耐硫酸塩ポルトランドセメントについて

海洋・海水の作用を受けるコンクリートでは、耐硫酸塩ポルトランドセメントという特殊なセメントが推奨されることがあります。

耐硫酸塩ポルトランドセメントはC3Aが少なく、硫酸塩に侵食されにくい特徴を持っています。一方C3Aは、塩分と反応してコンクリートの組織を緻密にし、コンクリート内部での塩分の拡散速度を抑える効果があります。

耐硫酸塩ポルトランドセメントは、コンクリートの耐硫酸塩の向上に効果がありますが、鉄筋の腐食防止からは逆効果となりうる場合もあり、注意が必要です。

高炉セメントやフライアッシュセメントなどの混合セメントは、Ca(OH)2の生成量が少なく、長期的な水和によって組織が緻密になるため、硫酸塩に対する抵抗性に優れています。

海水の作用を受けるコンクリートの塩害環境の区分について

海水からの飛来塩分は、海岸からの距離に応じて影響が変化します。地形や風向き、周辺の遮蔽物などによって影響は変化しますが、距離が離れるほど影響は少なくなります。

その一例として、海岸0m地点を1とした場合、50m地点で40~50%程度、100m地点で25%程度、200m地点では10%程度まで低下するとの調査結果があります。

下の表は、塩害環境の区分と構造物の立地条件の例を示しています。

環境区分         地域と海岸からの距離
重塩害環境・日本海側、沖縄県、伊豆・奄美諸島などの離島において、
 海岸から20m程度の距離
塩害環境・日本海側、沖縄県、伊豆・奄美諸島などの離島において、
 海岸から20~70m程度の距離
・東北地方の太平洋側において、海岸から20m程度の距離
準塩害環境・日本海側、沖縄県、伊豆・奄美諸島などの離島において、
 海岸から70~150m程度の距離
・東北地方の太平洋側において、海岸から20~100m程度の距離
・オホーツク海側、太平洋側、九州地方の東シナ海側において、
 海岸から50程度の距離

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