膨張コンクリートは、一般のコンクリートに膨張材を混入したコンクリートです。膨張材は、コンクリート用混和材料の一つで、コンクリートを膨張させる効果があります。
膨張コンクリートは、コンクリートを膨張させる事で圧縮応力を導入し、コンクリートの引張弱さを改善する効果があります。
この記事では、膨張コンクリートについて種類やメリット、配合などを解説します。
膨張コンクリートの種類やメリット・用途とは?
膨張コンクリートは、膨張量の大きさによって以下に分けられます。
- 収縮補償
- コンクリートの乾燥収縮・自己収縮を抑制
- ケミカルプレストレス
- コンクリートにプレストレスを導入
コンクリートの膨張が、コンクリート内部の鉄筋や鋼材によって拘束されると、コンクリートには圧縮応力が、鉄筋・鋼材には引張応力が導入されます。
収縮補償とは
コンクリートは水和反応や乾燥によって、内部の水が消失します。消失による内部空隙の毛細管張力によって、コンクリートに引張応力が発生します。
この引張応力がコンクリートの引っ張り強さを上回ると、ひび割れが発生します。
膨張材によって導入された圧縮応力が、コンクリートが収縮する時の引張応力を相殺することにより、収縮ひび割れを低減させます。
ケミカルプレストレスとは
PCコンクリートでは、コンクリートにプレストレスを導入する方法として二つのやり方があります。
- 鋼材(緊張材)の張力によってプレストレスを導入
- 膨張材の膨張力によってプレストレスを導入
膨張材の化学(ケミカル)反応でプレストレスを導入するのが、ケミカルプレストレスです。
ケミカルプレストレスの膨張量は、収縮時の引張応力を相殺し、更にコンクリートにプレストレスを与えるため、収縮補償よりも大きいのが特徴です。
膨張コンクリートのメリットや用途
- コンクリートのひび割れ低減
- ケミカルプレストレス
- 水密性の向上
コンクリートの乾燥収縮を抑制する事で耐久性が向上するため、構造物の供用期間を長くすることが可能となり、病院や学校などの公共性の高い建物に用いられます。
地下躯体の水密性の向上や、倉庫や立体駐車場などS(鉄骨)造のスラブのひび割れ防止としても良く用いられます。
膨張コンクリートの膨張率の目安とは
膨張コンクリートの膨張率の標準値は、表のようになります。
用途別 | 標準的な膨張率 |
収縮補償 | 150~250×10-6(150~250μm) |
ケミカルプレストレス | 200~700×10-6(200~700μm) |
ケミカルプレストレス [プレキャスト製品の場合] | 1000×10-6(1000μm)を上限 |
コンクリート用膨張材の種類とは
膨張材にはいくつか種類があり、化学組成と反応に違いがあります。
- CSA(カルシウムサルフォアルミネート) 系
- エトリンガイトを生成する
- CaO(生石灰) 系
- 水酸化カルシウムを生成する
- 複合系
- エトリンガイトと水酸化カルシウムの両方を生成する
- その他の膨張材
その他の膨張材には、マスコンクリートの温度ひび割れを抑制する目的で使用する水和熱抑制型膨張材や、プレキャスト製品で用いられる早強型膨張材などがあります。
従来は単位膨張材量を30㎏/㎥とした製品(膨張材30型)が一般的でしたが、近年、製品の改良によって、単位膨張材量を20㎏/㎥とした場合(膨張材20型)でも、従来と同等の膨張量を有する製品が一般的になっています。
引用元:太平洋マテリアル > 製品 > コンクリート混和材(剤) > ハイパーエクスパン(構造用)太平洋ハイパーエクスパン(構造用)
- 石灰系膨張材です。
- 太平洋エクスパン(構造用)よりもさらに少ない添加量で有効な膨張量を得ることが出来るため、より低コストでひび割れ低減効果が得られます。
- 拘束を受けることで組織を緻密化し、鉄筋拘束の場合はコンクリートにプレストレスを導入します。
「デンカ パワーCSA タイプS」は、エトリンガイトの生成と遊離石灰の反応をコントロールし、双方の技術を集約させたエトリンガイト・石灰複合系の低添加型の膨張材です。従来の膨張材よりも少ない単位量(20kg/m³)で有効な膨張を得ることができます。
引用元:Denka特殊混和材会員サイト › 製品情報 › デンカパワーCSAタイプS
コンクリートを練り混ぜるときにセメントと同時に混和することで、乾燥収縮によるひび割れを低減する収縮補償用の「膨張コンクリート」を得ることができます。
膨張コンクリートの配合の注意点とは
拘束などの条件が一定であれば、膨張材の使用によるコンクリートの膨張率は、膨張材の使用量と比例し、膨張率が大きいほど、膨張による収縮補償・ケミカルプレストレスの効果は大きくなります。
しかし、膨張材はコンクリートを内部から膨らませるため、過大な膨張率になると、コンクリートの圧縮強度の低下を招くため注意が必要です。
膨張材の使用量は?
収縮補償に用いる場合は、製品カタログの推奨値を標準に、ケミカルプレストレスに用いる場合は、製品カタログの推奨値の2倍程度を標準とし、必要な膨張量を試験によって確認します。
用途 | 単位膨張材量 |
収縮補償 | 30㎏/㎥(膨張材30型) 20㎏/㎥(膨張材20型) |
ケミカルプレストレス | 推奨値の2倍程度を標準 |
低熱ポルトランドセメントや混和材を多量に混合した混合セメントと膨張材を組み合わせる場合、膨張材の使用量を減らす必要があります。
その理由は、膨張材は材齢7日前後までの初期に作用するため、強度発現の遅いセメントを使用する場合、コンクリートが膨張力に負け、強度が低下する恐れがあるためです。
具体的な使用量は、製品カタログを目安に、試験によって膨張率と強度を確認します。
単位セメント量の規定は?
一般に、膨張材をセメントの一部とし、結合材量を一定としたまま、単位セメント量と単位膨張材量の割合を変化させて、所要の膨張率を得られるよう配合設計を行います。
ベース配合:単位セメント量300㎏/㎥ 膨張材配合:単位結合材量300㎏/㎥=(単位セメント量280+単位膨張材量20)
セメントの一部を膨張材で置き換える方法を内割り置換といいます。
外割り置換といって、細骨材と置き換える方法もあります。
内割り置換では、膨張材量を増やすとセメントが減るため、膨張率を大きくし過ぎるとセメントの不足により、強度の低下を招く恐れが出てきます。
そのため膨張コンクリートでは、結合材量のうち「最小単位セメント量=270㎏/㎥以上を標準」と規定されています。
膨張材と収縮低減剤の違いとは?
コンクリートの収縮補償に使われる材料には、膨張材以外にも収縮低減剤という材料があります。
収縮低減剤は化学混和剤の一種で、膨張材と同じくコンクリートの収縮を抑える材料ですが、メカニズムが違います。
混和材と混和剤の違いは、
混和材は、使用量が比較的多くコンクリートの体積計算に含む
混和剤は、使用量が少なくコンクリートの体積計算に含まない
膨張材と収縮低減剤の違いには、以下のようなものがあります。
作用メカニズム:
- 膨張材は、水和生成物によりコンクリートを膨張させて収縮を抑制
- 収縮低減剤は、水分の蒸発に伴う表面張力を低減させて収縮を抑制
使用方法:
- 膨張材は、セメントと置換して使用
- 収縮低減剤は、水と置換して使用
単位量:
- 膨張材は、20~60kg/㎥程度使用
- 収縮低減剤は、セメント量の1%(3~6kg/㎥)程度使用
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