コンクリートコアとは、構造物の各種特性値を測定するために、実際に打込まれたコンクリートからコアボーリングやソフトコアリングにより抜き取った供試体のことを言います。
コンクリートコアを採取して測定する理由には、一般に以下の目的があります。
今回の記事では、コンクリートコアについて、考え方や基準、抜き方、試験方法などについて説明します。
コンクリートコアを採取する理由
コンクリートコアを採取する理由について、2つの項目を挙げましたが、順番にその説明をします。
構造体強度補正値の設定
建築基準法には「構造物の強度は、設計基準強度を確保すること」と規定されています。
コンクリート自体の強度とコンクリート構造物の強度には、差がある
ことも分かっています。
そのため、構造物自体に設計基準強度を確保させるためには、構造物に必要な強度以上のコンクリートを使う必要があります。
この差を埋めるために行うのが、構造体強度補正です。
構造体強度補正値とは、「コンクリート自体の強度」と「構造物の強度」との差を表したもので、一般にS値と呼ばれています。
コンクリート構造物をつくるには、「構造物と供試体との強度差」をあらかじめ確認した上で、コンクリートの発注をする必要があります。
そこで、コンクリートと構造物の強度差を確認する実験を行い、構造体強度補正値を決定します。その際に必要となるのが、コンクリートコア供試体です。
- はじめ模擬体(コンクリート構造物の試作品)の打設
同時にコンクリートの強度確認用供試体(標準養生供試体)を作製
- 28日後コンクリートの強度試験
標準養生供試体の28日強度を測定
- 91日後構造物の強度試験
模擬体からコア供試体を抜き取り、91日強度を測定
- おわり構造体強度補正値の算出
標準養生供試体の28日強度とコア供試体の91日強度の差を計算する
この差が構造体強度補正値(mSn値)になり、28日強度と91日強度の差を表す場合、28S91と表記します
既存構造物の劣化・補修のための検査
コンクリート構造物は、外力や経年劣化により、元々の性能が少しずつ低下していきます。そのため、現状の性能を確認するためには、構造物を直接測定する必要が出てきます。
コア供試体を採取し、構造物を直接測定する事で、以下のような評価・判断が出来ます。
測定結果から、耐震補強の是非や補修・補強の要非を決定し、また、建て壊しの判断をして、構造物を安全・安心に供用するために、コア供試体で構造物を直接測定する事が重要となります。
コンクリートコアの抜き方・採取方法
コンクリートの壁や床に直接穴を開けて、円柱状に切り出し整形したものがコンクリートコア供試体となります。
コンクリートコアの抜き方には、乾式穿孔と湿式穿孔の2種類があります。
コンクリートコアの乾式穿孔
乾式穿孔とは、ハンマードリル(回転と打撃を同時に行う電動工具)にダイヤモンドビットを装着して穴を開ける方法です。
乾式用ダイヤモンドビットは、刃先にダイヤモンド砥粒が埋め込まれた円筒形の刃物で、回転方向に向かって角度を付けた超硬チップが付いており、摩擦熱で切削する仕組みです。
コンクリートコアの湿式穿孔
湿式穿孔とは、コアドリル (大型の電動ドリル)の先端にダイヤモンドビットを装着し、水を使いながら穴を開ける方法です。
湿式用ダイヤモンドビットは、刃先にダイヤモンド砥粒が埋め込まれた円筒形の刃物で、水で冷却しながら切削する仕組みで、水を送るためのポンプやチューブなども必要です。
乾式穿孔と湿式穿孔のメリット・デメリットを比較表にまとめました。
メリット | デメリット | |
乾式穿孔 | 水が無い・使えない場所でも出来る 養生や汚水処理の手間が少ない 機械をセットする必要がなく手軽 | 大量の粉塵が舞う 防塵マスク・防塵メガネが必須 摩擦熱でドリルの消耗が早い 切断に時間がかかる 削孔長はビットの長さまで |
湿式穿孔 | 差し込みが軽く精度が高い 短時間で穿孔可能 穿孔面に凹凸が少なく補修がいらない ダイヤモンドビットが長持ちする 延長ロッドを使用すると深い穿孔も可能 | 専用の機械が高価 機械の取り扱いにある程度の技術が必要 汚水(切断水)の養生・処理に手間がかかる 周囲に水が接触しないよう注意が必要 |
各種試験用のコア供試体を抜く場合は、湿式穿孔にて抜き取り、供試体の寸法に整形します。
コア抜きの施工前に確認すべきものには、以下のようになります。
- 物理的に穴を開けるため、構造体強度に影響を与える可能性
- 鉄筋を避けるため、内部の鉄筋の位置や太さの調査が必要
- コア抜き後の構造体強度の確認と、必要に応じて補強方法の検討
- 大きな騒音が発生するため、騒音対策の実施
- 粉塵や汚水(切断水)が発生するため、適切な養生や処理の実施
コア抜きの価格は、穴のサイズや深さ・個数や場所など条件によって異なります。
相場は、直径10cmで10cmの深さの穴の場合で、1か所あたり1万円前後のようですが、相見積もりを取った方が良いでしょう。
コンクリートコア供試体の整形と試験方法
切り出したコンクリートコアは、圧縮強度試験を行う前に、規定の寸法に整形・端面を研磨する必要があります。
供試体の採取・整形方法と強度試験の方法は、
JIS A 1107[コンクリートからのコアの採取方法及び圧縮強度試験方法]
で規定されています。
コア供試体の高さと直径との比(h/d)は圧縮強度に影響し、高さと直径の比が小さいほど、圧縮強度試験の見かけの結果は大きくなります。
つまり、高さが短いものほど試験値が大きくなります。規定の寸法で試験した値が、正しい結果ですので、係数を利用して強度結果を補正する必要があります。
高さと直径との比(h/d) | 補正係数(k) |
2.00 | 1.00 |
1.75 | 0.98 |
1.50 | 0.96 |
1.25 | 0.93 |
1.00 | 0.87 |
コア供試体の圧縮強度は次式によって算出し、四捨五入によって有効数字3桁に丸めます。
fcr(圧縮強度)= fc(補正前の圧縮強度)× k(補正係数)
また、コンクリートコアを採取する部位によっても圧縮強度に影響があります。
一般に打継ぎ面や型枠際は「強度が低くなる傾向」があり、柱や壁部材は部材の下の方が「強度が高くなる傾向」があります。
ソフトコアリング法とボス供試体
従来のコンクリートコア供試体以外にも、構造体コンクリートの強度を直接測定する方法があります。
ソフトコアリング法
ソフトコアリング法は、構造体から直径20mm程度の直径の小さなコアを採取し、圧縮強度試験を行う方法です。
従来のコア供試体の直径が100mmなのに対し、20mmと小さいため、小径コアとも呼ばれています。
コア供試体に比べて構造体に与える損傷が小さく、過密配筋などで採取が困難な部位からも、供試体を採取することが出来ます。
ソフトコアリング法では、小径コアと従来の直径100mmのコアの強度関係式を用いて、小径コアの圧縮強度試験の試験値を補正することでコンクリート強度を推定します。
ボス供試体
ボス供試体とは、構造体コンクリートと一体成形した直方体の供試体です。
構造体コンクリートの測定を事前に想定し、コンクリートを打込む時に、あらかじめ構造体にボス供試体用の型枠を設置し、構造体と一体成形します。
コア供試体のように構造体に穴を開けることがないため、
- 構造体を損傷することがない
- 採取が簡単
- 採取後の補修が要らない
などのメリットがあります。
ボス供試体は、一般に100×100×200mmの直方体で、成形や研磨を必要とせずにすぐに試験を行うことが可能です。
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