構造体強度補正値を知ってはいても、なぜ必要なのか?そもそも、どういう目的で、どうやって補正値を求めているかを知らない人が多いと思います。
この記事を読めば、構造体強度とは何か、どうして必要なのか、その値の求め方など、理解していただけるよう解説していきたいと思います。
強度補正とその目的
建築基準法では、構造物の強度は、設計基準強度を確保する事が定められています。
しかしながら、コンクリートは工場で製造された後に、型枠内で強度を増していくため、鉄筋や鋼などの工業製品と違い、均一な強度を確保する事が難しい製品です。
さらには、コンクリート自体の強度と、コンクリート構造物の強度には、差があることが知られています。
その結果、構造物自体に設計基準強度を確保させるためには、本来必要な強度以上のコンクリートを使う必要が生じます。
これが、コンクリートの強度補正を行う目的で、正確には、構造体強度補正と呼びます。
では、本来必要な強度以上、というのは、どの程度、強度を割増していれば良いのでしょうか?
その答えをこれから説明していきます。
構造体強度補正の意味とは
はじめに結論を説明すると、構造体強度補正とは、供試体コンクリートの28日強度と構造体コンクリートの91日強度の強度差を、補正する事を言います。
標準養生をした供試体の28日強度と、コア供試体の91日強度の、強度差です。
- 標準養生をした供試体の28日強度とは、一定条件で養生された、コンクリートの品質を確認するための強度
- コア供試体の91日強度とは、構造物が置かれた固有の条件で養生された、構造物独自の強度
つまり、コンクリートという製品の強度と、その製品で作られた構造物の強度には、差が生じるという事であり、特殊なコンクリートを除いて、91日構造体強度は、28日供試体強度よりも低いことが分かっています。
下に、構造体強度補正値の簡単な図を書いてみました。
赤線がコンクリート自体の強度のグラフ、青線が構造体強度のグラフです。供試体の材齢28日時点の強度より、構造体の91日時点の強度のほうが、下にあるのが分かると思います。そして矢印の部分、28S91と書かれたものが、構造体強度補正値になります。
つまり、構造体強度補正値とは、常に+側の補正をするものと理解してください。
構造体の強度が、設計基準強度を確保するためには、供試体コンクリートの28日強度は、構造体の91日強度よりも、構造体強度補正値の分(矢印の大きさ)だけ強度が高くなければならない、という事になります。
ちなみに、構造体強度補正値を通称「S値」と呼び、「mSn」と表記します。mは供試体コンクリートの材齢、nは構造体コンクリートの材齢を表しています。
上記の場合のS値は、28S91と表記します。
特殊なコンクリートの場合、56日供試体強度と91日構造体強度の強度補正値を用いる場合もあり、56S91となる場合があります。
実際に構造体強度補正をするには
では、実際の構造体強度補正値はいくつなのか?を説明する前に、まずはじめに、コンクリート強度の増加について簡単に説明します。
コンクリート強度の増加
コンクリート強度の増加は、水分と温度の影響を受けます。
コンクリート中のセメントと水が、水和と呼ばれる化学反応を起こすことで、強度を増していきます。
その化学反応は、温度の影響で反応のスピードが変わります。温度が高いほどスピードが早く、温度が低いほどゆっくりと進みます。
この、水和反応のスピードの違いは、コンクリート強度の増加スピードだけでなく、強度の最大値にも影響を及ぼします。
このことを、ふまえて読み進めてください。
構造体強度補正の値と期間
構造体強度補正値は、セメントの種類と予想平均気温の範囲に応じて定められています。
セメントの種類 | コンクリートの打込みから28日までの期間の予想平均気温θの範囲 | |
早強ポルトランドセメント | 0≦θ≦5 | 5≦θ |
普通ポルトランドセメント | 0≦θ<8 | 8≦θ |
中庸熱ポルトランドセメント | 0≦θ<11 | 11≦θ |
低熱ポルトランドセメント | 0≦θ<14 | 14≦θ |
フライアッシュセメントB種 | 0≦θ<9 | 9≦θ |
高炉セメントB種 | 0≦θ<13 | 13≦θ |
構造体強度補正値 | 6 | 3 |
暑中期間(日平均気温の平年値が25℃を超える期間)は、構造体強度補正値を6とする |
この表から、気温の低い冬と気温の高い夏は、構造体強度補正値が大きい事が分かるとおもいます。それは、先に述べた水和反応の特性が影響しているからです。
冬は、気温が低いため水和反応が遅くなります。水和反応が遅いという事は、構造体強度の増加が遅いということです。そのため、供試体強度と構造体強度の差が広がり、大きな補正値が必要になります。
では、夏はどうでしょう?
気温が高く水和反応は早くなります。一見すると反応が早く進むため、補正値は小さくなる気がします。しかし、気温の高い夏も、大きな補正値が必要になります。
それは、水和反応の速さが強度へ影響を及ぼすからです。反応が早く進んだコンクリートは、ゆっくりと進んだコンクリートよりも強度が小さくなります。
強度の増加は早いのですが、早く進む分、強度の最大値は低くなる。そのため、夏の時期も、大きな補正値が必要になります。
そして、もうひとつ。この表は、気温とセメントの種類で分類されています。
コンクリートは、水和反応の過程において、水和熱という発熱を起こします。この自己発熱は、セメントの種類によって、その熱量に違いがあります。
熱量の小さいセメントほど、寒くなる早い時期から大きな補正値が必要になります。
まとめ
構造体強度補正値とは、使用するコンクリートと構造体コンクリートの強度差を埋めること。
強度差が生まれる理由は、使用するコンクリートと構造体コンクリートの硬化環境の違いが関係していること。
補正値を決めるには、セメントの種類と気温が必要なこと。
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