コンクリートの配合推定は、既設コンクリートの単位セメント量や単位水量、単位骨材量などを推定する試験です。
既設のコンクリート構造物を、局部的に破壊して得られた試料をもとに、酸化カルシウム・強熱減量・吸水量などを測定します。
測定したデータから、構造物に使用された生コンクリートの配合を推定し、構造物の劣化要因や今後の劣化進行速度を推定するために行われます。
この記事では、コンクリート構造物の配合推定について説明します。
コンクリートの配合推定方法の種類とは
硬化コンクリートの配合推定の方法にはいくつかの種類がありますが、いずれもコンクリートを酸で溶解することが基本となります。
下の表に、各分析方法の概要をまとめました。
分析方法 | 分析項目 | 分析方法の特徴 |
セメント協会法 | 単位セメント量 単位骨材量 単位水量 | 貝殻を含む海砂、石灰石骨材を使用 したコンクリートには適用できない |
グルコン酸ナトリウム法 | 単位セメント量 単位骨材量 | 混合セメントを使用したコンクリートや 中性化したコンクリートには適用できない |
ICP法(ギ酸法) | 単位セメント量 単位骨材量 | 中性化やアルカリシリカ反応を生じている コンクリートには適用できない |
フッ化水素酸法 | 単位セメント量 単位骨材量 単位水量 | フッ化水素酸が人体に有害、 化学的操作に熟練を要する |
1.セメント協会法
希塩酸を溶解剤として用います。普通ポルトランドセメントで、一般的な骨材の場合に適用でき、中性化したコンクリートにも適用することが出来ます。
石灰石骨材や貝殻を含む海砂を使用したコンクリートには適用することができません。
2.グルコン酸ナトリウム法
グルコン酸ナトリウム溶液を溶解剤として用います。グルコン酸ナトリウム溶液は、貝殻や石灰石骨材の炭酸カルシウムをほとんど溶解しないため、セメント協会法では分析のできない石灰石骨材や貝殻を含んだ海砂に適用できる分析方法です。
混合セメントを使用した場合や、中性化したコンクリートには適用できません
3.ICP法(ギ酸法)
ギ酸溶液を溶解剤として用います。ギ酸溶液は骨材中の可溶性シリカは溶解せずに、セメント中の可溶性シリカのみを溶解します。
セメント量を±15 kg/㎥以内の高い精度で短時間で試験することができます。グルコン酸ナトリウム法と同様に、石灰石骨材や貝殻を含んだ海砂に適用できる分析方法です。
中性化したコンクリートやアルカリシリカ反応を生じているコンクリートには適用できません。
4.フッ化水素酸法
フッ化水素酸を溶解剤として用います。フッ化水素酸で溶解したコンクリート及び粗骨材のカルシウム量からセメント量と粗骨材量を推定し、石灰石骨材を含むコンクリートにも適用できます。
フッ化水素酸が人体に有害であることや化学的操作に熟練を要するといった欠点があります。
セメント協会法やグルコン酸ナトリウム法は、通常の化学分析レベルの機器・試薬で行うことができます。
ICP法(ギ酸法)やフッ化水素酸法は、ICP(誘導結合プラズマ発光分光分析装置)・偏光顕微鏡を使用するため、一般的な試験機関では設備上、試験が困難となります。
硬化コンクリートの配合推定の試験手順とは
実際の配合推定の手順について、もっとも一般的に用いられているセメント協会法(硬化コンクリートの配合推定のための化学分析方法)を例に説明します。
配合推定(セメント協会法)の試験手順
- 単位容積質量の測定
採取されたコンクリートコアの単位容積質量及び吸水率を測定
- 試料の微粉砕
105μmふるいを通過する程度まで微粉砕
- 600℃強熱
600℃の電気炉で強熱し、質量の減少量を測定
- 塩酸溶解
試料をビーカーにはかりとり、塩酸を加え撹拌しながら溶解
- ろ過
溶解した試料をろ過し、ろ液をEDTA標準液を用い滴定
- 1000℃強熱
不溶残分を1000℃の電気炉で強熱し、強熱後の質量を測定
試料の準備と単位容積質量の測定
試験に用いる供試体は、JIS A 1107「コンクリートからのコアの採取方法及び圧縮強度試験方法」の考え方に従い、コアの最小直径=粗骨材最大寸法の3倍以上、長さ=コア直径以上とすることが多い。
- 採取したコア供試体を48時間水中浸漬
- 水分を吸収させ、表乾時の単位容積質量を測定
- 105℃で48時間乾燥
- 水分を飛ばし、絶乾時の単位容積質量を測定
105μmふるいを通過する程度まで微粉砕し、試験に必要な量を縮分によって、はかりとります。
結合水の定量と、セメント量・骨材量の定量
1gの試料で、600℃強熱時の強熱減量を測定し、結合水量を推定します。
別の1gを塩酸で20分間撹拌し、コンクリートを溶解させます。溶解液中の酸化カルシウムと不溶残分をJISR5202「ボルトランドセメントの化学分析方法」に従い定量します。
酸化カルシウムからセメント量を推定し、不溶残分から骨材量を推定します。
試験によって求められた推定値は乾燥時のデータであるため、骨材の吸水率・試料の吸水量・試料の単位容積質量をもとに、表乾時の配合に変換します。
配合推定時の問題点や注意すべき点
セメント協会法では、補正値の分析として使用材料の入手が必要となるが、材料の入手ができない場合、全国平均値を代用することがあります。
平均値を代用した場合は、推定値に誤差が生じる場合があることに注意しておく必要があります。
また、いずれの方法に関わらず配合推定の共通の注意点として、試験に用いたコア供試体が構造物の特性を代表しているかという問題があります。
コンクリートは打込み時のブリーディングや粗骨材の沈降によって、部材断面での材料分布が変化します。
一般に密度の軽い水分は上層に浮き上がるため、高さ方向で水セメント比が変動し、下層部分は水セメント比が小さく、上層部分は大きくなるとされています。
そのため、コアの採取にはこの点を考慮して位置を選定するとともに、推定結果についてもコアの採取位置を加味する必要性があります。
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