鉄筋コンクリート構造物のひび割れには、発生時期とひび割れのパターン(形状)に固有の特徴があります。
ひび割れが認められた場合、発生した時期とひび割れのパターンによって発生原因を推定し、的確な対処をすることが重要となります。
鉄筋コンクリート構造物のひび割れは、原因別に以下の分類となります。
このうち「鉄筋腐食が原因のひび割れ」は、先に鉄筋が腐食し、腐食が進行した結果、コンクリートにひび割れが発生したものを指します。
そのため鉄筋腐食が原因のひび割れでは、コンクリートにひび割れが発生した時点で、鉄筋の腐食が進行している事が特徴となります。
鉄筋腐食が原因のひび割れのメカニズムとは
鉄筋の腐食によって、コンクリートにひび割れが発生する理由は、鉄筋の体積膨張にあります。
鉄が腐食し、サビが浮き出てくることを発錆と言います。元々(発錆する前)の鉄とサビが発生した鉄の体積を比較すると、サビた鉄の方が体積は大きくなります。
コンクリート内部の鉄筋がサビると、体積膨張による膨張圧がコンクリート内部に生じます。
コンクリートが、膨張圧による引張応力に耐えられなくなると、ひび割れが発生します。これが、「鉄筋腐食が原因のひび割れ」のメカニズムです。
サビによる体積膨張の例
「発錆する前の鉄」の体積を100%とした場合に、「体積の10%部分がサビた鉄」の体積と比較すると、
鉄の体積 | サビの体積 | 全体(鉄とサビ)の体積 | |
発錆する前の鉄 | 100% | 0% | 100% |
サビが発生した鉄 | 90% | 10%×2~4=20~40% | 110~130% |
一般に、腐食による体積膨張は2~4倍と言われていて、サビが発生すると体積は大きくなります。
鉄筋腐食が原因のひび割れの種類とは
鉄筋腐食が原因のひび割れは、コンクリート内部の鉄筋が腐食膨張を起こすことで発生します。
コンクリート内部の鉄筋が腐食する主な原因は、次のふたつ。
- 中性化による鉄筋腐食
- 塩害による鉄筋腐食
鉄筋腐食が原因のひび割れは、内部鉄筋の腐食環境・条件が揃うことで、ひび割れが発生します。
塩害による鉄筋腐食については、こちらの記事で紹介しています。
コンクリートの中性化とは
コンクリートの中性化とは、コンクリートが空気中の二酸化炭素と触れることで、炭酸化反応という化学反応を起こすことです。
- 新設時
コンクリート内部はPH12~13程度の強アルカリ性で、鉄筋は不動態被膜に保護されている
- 潜伏期
コンクリートの中性化が進むことでアルカリ性が低下し、不動態被膜が消失する
- 進展期
水分・二酸化炭素により、コンクリート内部の鉄筋が徐々に腐食する
- 加速期
腐食によるひび割れが発生する。ひび割れによって水分・二酸化炭素が浸透しやすくなり、鉄筋の腐食が進行する
- 劣化期
腐食の進行によってひび割れが増加し、コンクリートの剥落が起こる。また鉄筋も腐食による断面欠損が進む
コンクリート内部はセメントの水和生成物(水酸化カルシウム)の存在により、PH12~13程度の強アルカリ性を呈します。強アルカリ環境下において、コンクリート内部の鉄筋表面には、不動態被膜という緻密な酸化物層が形成されます。
不動態被膜は、コンクリート内部の鉄筋が水分や二酸化炭素と接触するのを防ぐ役割を持っているため、内部の鉄筋は腐食を起こしません。
コンクリートの中性化が進むとアルカリ性が低下し、不動態被膜が消失します。被膜が消失した事によって鉄筋と水分・二酸化炭素の接触が起こり腐食が開始します。
腐食による膨張圧でコンクリートにひび割れが発生し、ひび割れの増加によって水分・二酸化炭素が浸透しやすくなり、さらに腐食が進行します。
ひび割れの増加によってコンクリートの剥落が起こり、腐食の進行によって鉄筋の断面欠損が起こり、構造体の耐荷力が低下します。
中性化に水分と二酸化炭素がなぜ関係するのか?化学的に見てみよう
中性化は、二酸化炭素がコンクリート内部に浸入し、セメントの水和生成物と反応することで起こると、ここまででお伝えしました。
二酸化炭素が内部へ拡散するための条件とは
二酸化炭素はコンクリート内部の空隙を通り道として、内部へと拡散していきます。そのため二酸化炭素の拡散速度は、
によって決まります。
コンクリート内部の空隙量・空隙構造
コンクリートの内部空隙の量や大きさには、以下が関係しています
水セント比が小さいほど水和生成物の量が増えるため、内部空隙が少なくなり、空隙の径も小さくなります。水和度も、水和が進むほど水和生成物の量が増えるため、同様のことが言えます。
骨材に関しては、空隙が多いポーラスなものほど透気性が高くなります。
コンクリートの含水率
コンクリートの含水率は、二酸化炭素の拡散しやすさに影響しています。気体の拡散速度を、液体中と大気中で比較した場合、液体中における気体の拡散速度は、大気中に比べて非常に小さいことが分かっています。
つまり、コンクリート内部での二酸化炭素の拡散は、乾燥状態にある空隙のみで起こっているとみなすことが出来るため、コンクリートの含水率が低いほど、二酸化炭素の拡散速度が大きいということになります。
- 内部空隙…[二酸化炭素にとっての道路] 多いほど交通量が増える
- コンクリートの含水率… [道路の込み具合] 濡れているほど、渋滞で進まない
「空隙の量」と「空隙の状態」が二酸化炭素の拡散速度に影響しています。
二酸化炭素が水和生成物と化学反応を起こすためには
内部へ拡散した二酸化炭素が、水和生成物と反応することを炭酸化反応といいます。その反応の内容を、まずは化学式で説明します。
Ca(OH2) + H2CO3 | → | CaCO3 + 2H2O |
水酸化カルシウム+炭酸 | → | 炭酸カルシウム+水 |
内部へ拡散した二酸化炭素は、空隙内の水分に溶け、炭酸(炭酸イオン・炭酸水素イオン)になります。
これらが、水酸化カルシウムと反応し、炭酸カルシウムを生成することを炭酸化反応といいます。
中性化が進行する条件は、二酸化炭素と水のバランスにある
ここまでの記事で書いた、中性化に必要な二酸化炭素と水の関係を整理したいと思います。
ここで、一番のポイントは水になります。
内部が水で満たされている場合、二酸化炭素は拡散しないため中性化は起こりません。その一方で、内部が乾燥している場合も、炭酸化反応が起こらないため、中性化は進行しません。
中性化の進行がもっとも速いのは、
二酸化炭素が拡散でき、なおかつ炭酸化反応も起こる程度の湿度、
40~60%程度の湿度の時が、もっとも進行するとされています。
鋼材の腐食にも、二酸化炭素と水が必要
中性化により、強アルカリ性だったコンクリート内部は次第に中性へと傾いていきます。鉄筋の腐食はpH11以下になった時点から始まるとされていますが、実際の構造物中では、中性化残りが8㎜の時点で腐食が起こるとされています。
「中性化残り」とは:
コンクリート表面から内部へと中性化が進行した時、中性化がしていない部分と鉄筋のかぶりまでの距離のことをいいます。
つまり、中性化した部分が鉄筋に到達する以前から、腐食が開始することになります。しかしながら、鉄筋の腐食にとって直接的な原因は、酸素と水が供給されることです。
「不動態被膜の消失+酸素・水の存在」となった場合に鉄筋の腐食が起こります。
条件によっては、中性化が進んでも鉄筋の腐食が進行しないことも多く、鉄筋腐食の根本的な原因は、水と酸素であることを覚えておいてください。
中性化が進めば鉄筋が腐食するのではなく、中性化が進むと鉄筋を保護するチカラが無くなる、ということです。
コンクリートの中性化によって強度は増加する?
炭酸化反応は、水酸化カルシウムCa(OH)2 → 炭酸カルシウムCaCO3へ変化することです。炭酸カルシウムに変化すると、分子量と密度から計算し、体積は12%程度増加することになります。
そのためコンクリート内部の空隙は、炭酸化反応によって減少するとのデータが多く、空隙の減少によって強度が増加したデータも多いという話があります。
一方、カルシウムシリケート水和物(C—S—H)も炭酸化反応により分解されるため、中性化によってC—S—Hが減少したものは、強度の低下がみられるというデータもあります。
コンクリート強度では、中性化による影響ついて一定の評価をすることは困難とされています。
コンクリートの中性化はセメントの種類の影響も大きい?
ポルトランドセメントと比較して、混合セメントや混和材を使用した場合は、中性化に対する抵抗性は低くなるというのが一般的です。
ですが、混和材の長期的な水和反応は、コンクリートの空隙を減らし緻密にするため、中性化の進行を遅らせる効果があります。
また一般に、コンクリートの配合は、所定の材齢(主に28日)で必要な強度を保証するため、短期強度の低い混合セメントや混和材を使用した場合、同じ強度のコンクリートでは水セメント比(水結合材比)が小さくなります。
により、一様に中性化に対する抵抗性が劣るとは言えないということになります。
中性化部分が鉄筋に到達する以前に腐食が開始する理由は?
中性化が鉄筋位置まで到達する前に鉄筋の腐食が起こる理由は、硫酸イオンと塩化物イオンの存在にあります。
これらのイオンは未炭酸化部分(鉄筋方向)に移動するため、中性化より先に鉄筋位置まで到達します。中性化が進むほどイオンの濃縮が多くなり、塩化物イオンによる塩害が発生します。
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