鉄筋コンクリート構造物のひび割れは、原因別に以下の分類となります。
このうち「コンクリートの劣化が原因のひび割れ」は、ひび割れの進展が時間の経過によって収まる初期ひび割れとは違って、経年劣化の形態を有する進行性のひび割れです。
ひび割れによってコンクリート組織の緩みや強度の低下を招き、最終的には、部材の崩壊に繋がる恐れのあるひび割れです。
コンクリートの凍害は、コンクリートが劣化作用を受ける時期によって、
- 初期凍害
- 凍結融解作用による劣化
の二種類があります。
この記事では、供用後のコンクリート構造物が受ける「凍結融解作用による凍害」について記載しています。
コンクリートの施工時に受ける初期凍害については、こちらの記事で説明しています。
コンクリートの凍害のメカニズムとは?
凍害は、コンクリート内部の水分が凍結によって膨張することで発生します。
気温の低い冬期間では、コンクリート内部の空隙に浸透した水分が、気温の降下によりコンクリート内部で凍結します。
水は凍結によって体積で9%膨張するとされていて、膨張によって空隙内の未凍結水が周囲へ押し出され、空隙の内側から応力が発生します。
膨張圧が空隙内の壁に引張応力として作用するため、膨張圧がコンクリートの引張強度より大きくなるとひび割れが発生します。
その後の気温の上昇によって、凍結した水分は発生したひび割れに浸透していきます。
水分の「凍結」⇔「融解」を1サイクルとして繰り返し作用することで、コンクリートの内部に微細なひび割れが蓄積されていき、徐々に劣化が進行していくのが、凍結融解作用の繰り返し作用による劣化になります。
凍害の原因と劣化形態とは
凍害の発生原因は、おもに
- コンクリートの要因(内的要因)
- 環境要因(外的要因)
の二つがあります。
環境要因(外的要因)
凍害はコンクリート内の水分が、低温下において凍結することによって起こる劣化現象であるため、北日本や東日本の内陸部など寒冷地で問題となりやすく、温暖な地域でも山間部などでは凍害の危険性があるとされています。
また気温だけでなく、日射や水分の供給も要因となります。
コンクリートの要因(内的要因)
水分が内部に浸入しやすいコンクリートほど凍害の危険性が増すため、水セメント比や養生の影響を受けます。また、コンクリートの空気量や骨材の吸水率が、凍結時の作用と関係します。
環境要因について、JASS5の「凍結融解作用を受けるコンクリート」では、凍結融解作用の大きさを係数で示していています。凍結融解作用係数については、こちらの記事で詳しく説明しています。
凍害の発生は、「気温」・「水分供給」・「コンクリートの品質」が揃う事でおこります。
水の凍結融解の繰り返し作用であるため、水が凍結するような低温環境であることと、融解=溶けることも重要であるため、日射などによって寒暖差があること。
凍結した水によって起こる劣化のため水分の供給程度、供給された水分がコンクリート内部へと侵入する必要があるため、コンクリートの表層組織や内部の緻密さなどが影響します。
コンクリート内の空気が凍結融解作用を緩和する
コンクリート内部には通常3~6%程度の空気が含まれていて、コンクリートが凍結融解作用を受ける時、空気量=気泡が大きな役割を果たします。
下の図はコンクリート内部の空隙のモデルです。左図は気泡同士の距離が近い場合、右図は気泡同士の距離が遠い場合のモデルです。
コンクリート内部の空気=気泡同士の距離が近いほど、水の凍結時に生じる圧力を緩和するため、凍結融解作用に対する抵抗性が向上します。
気泡同士の距離を気泡間隔といい、気泡間隔の平均値を気泡間隔係数と呼びます
コンクリート内部の空気量を増やし、気泡だらけにすれば気泡間隔は小さくなります。
ですが、コンクリートの空気量は圧縮強度とも関係をしていて、一般に空気量が1%変動すると、圧縮強度は5%程度変動するとされているため、空気量をむやみに増やすことはできません。
気泡間隔を小さくするには、空気量を増やすのではなく気泡の径を小さくすることが重要となります。
凍害の劣化形態の代表的なものはスケーリング
凍害による劣化の形態は、おもに次の3種類に分類出来ます。
- スケーリング
- ポップアウト
- 微細ひび割れ
スケーリング・微細ひび割れ
コンクリートのペースト部が劣化するもの。
スケーリングは、コンクリート表面が薄片状に剥離する。微細ひび割れは不規則な地図状の表面ひび割れが起こる。
ポップアウト
コンクリートの骨材が劣化するもの。
コンクリート表層付近の骨材が膨張を起こし剥落するもので、円錐状の穴のような形態をとります。
凍害による劣化の進行
凍害の劣化は、内部へとひび割れが進行するのではなく、コンクリートの表層部分が破片状に剥がれていき、少しずつ断面が減っていきます。
- 潜伏期
劣化作用を受けているが、性能低下がなく健全な段階
- 進展期
劣化の深さは小さく、性能に問題ないが、外観に影響を及ぼす段階
- 加速期
劣化が深くなり、剥落や鉄筋腐食が発生する段階
- 劣化期
劣化の深さが鉄筋位置を越え、剥落・腐食が激しく、安全性能に影響を及ぼす段階
凍害が起こりやすいコンクリート構造物の事例とは
一般に土木構造物の方が、気象条件が厳しい場所に設置される事が多く、水の供給が多いため凍害による劣化を受けやすい条件下にあり、道路橋や境界ブロック、擁壁、水路、防波堤などに凍害による劣化が多くみられます。
建築構造物は、仕上げ材により保護されている事が多く、水切りなどの処理もなされている場合が多いため、土木構造物に比べて凍害による劣化の影響は小さいといえます。
建築構造物で凍害の劣化が起こる箇所は一般に建物の外周になり、外壁部分よりも、軒先やベランダ、ひさしなどの突出部に多く、屋上や屋外階段も起こりやすい部分となります。
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