コンクリート構造物の非破壊調査、ひび割れ・空洞

診断

構造物の非破壊調査の方法として、部材内部のひび割れや空洞、埋設物について、その有無や位置などを特定するには、次のような手法があります。

  • サーモグラフィ法
  • 電磁波レーダー法
  • 弾性波法
  • アコースティックエミッション法
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サーモグラフィ法とは

サーモグラフィ法は、物体表面から放射される赤外線をセンサーで測定し、映像化する方法で、非接触かつ迅速に調査できるため、次のような調査に用いられています。

漏水・浮き(仕上げ材・コンクリート)・断熱性能

サーモグラフィとは、赤外線装置によって測定した表面温度の分布を、映像化したものを言います。

サーモグラフィ法の特徴と原理

全ての物質は表面から赤外線を放射していて、その放射量は表面温度によって異なり、赤外線を測定することで、物体の表面温度を知ることができます。

この仕組みを応用して、コンクリートの表面温度を測定し、映像化する事で内部欠陥の有無を知る手法がサーモグラフィ法です。

コンクリートの表面温度は、一日を通して日射や気温によって変動しています。

ひび割れや空洞などの欠陥がある場合は、空洞部分の空気が断熱層となるため、健全な部分と比較して、サーモグラフィに温度差として検知できます。

サーモグラフィ法の測定方法とその注意点

通常の写真撮影と同様に、撮影対象の正面位置から適度な距離をとって測定しますが、写真と違い気象条件によって測定精度が左右されます。

測定の注意点として、次の事が挙げられます。

  • 測定は晴れた日に行う
  • 温度差をより鮮明にさせるため、最高気温・最低気温の時間帯、もしくは日射による受熱量が最大となる時間帯に行う
  • 表面の光沢・汚れによる温度差を誤認することがある

サーモグラフィ法で検出できるのは50㎜程度の深さまでで、欠陥の深さ(深さ方向の位置)や空隙の厚みは分かりません。

また、構造物の形状や立地条件によっては、正面に近づけず、撮影自体が困難となる場合があります。

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電磁波レーダー法とは

電磁波レーダー法は、コンクリート内へ放射した電磁波が、反射によって返ってくるまでの時間を計測する事により、反射物体の位置を特定する手法です。

操作が簡単ですぐに結果が得られるため、次のような調査に用いられています。

構造物の部材厚・内部空洞・内部埋設物

電磁波レーダー法の特徴と原理

電磁波は、電気的性質が違う物体があると、その境界面で反射する性質があります。その際、物体の密度によって二通りの反射を起こします。

  • 伝播した物体より密度が小さい場合、逆位相の反射
  • 伝播した物体より密度が大きい場合、同位相の反射

電磁波レーダー法では、コンクリート内部へ電磁波を放射し、反射して戻るまでの時間を連続的に測定することで、反射の移り変わりを捉えます。

そのため、コンクリート内部を伝播する電磁波の速度が、測定精度に影響を及ぼすことになります。

電磁波の速度は、コンクリートの比誘電率による補正をするため、適切に設定することが求められます。

詳しくは、こちらの記事で解説しています。

弾性波法・アコースティックエミッション法とは

弾性波法は、発振子や物理的な衝撃により弾性波を発生させ、その弾性波を受信して解析する音響学的手法で、次のような調査に用いられています。

部材厚さ・ひび割れ・空洞(内部・背面)

弾性波の周波数や弾性波の発生・受信方法によっていくつかの手法に分類できます。

  • 打音法
  • 衝撃弾性波法
  • 超音波法
  • アコースティックエミッション法

打音法・衝撃弾性波法

コンクリートを直接打撃することで弾性波を発生させ、20kHz以下の低い周波数の弾性波を利用します。

  • 打音法…コンクリート表面から空気中に放射される弾性波(叩いた時に聞こえる音)を測定
  • 衝撃弾性波法…受振子によって、コンクリート内部を伝わる弾性波を測定

超音波法

20kHz以上の高い周波数の弾性波を利用し、発振子からコンクリート中に発射された弾性波を受振子によって測定します。

センサの取付位置によって次の分類があります。

  • 透過法
  • 反射法
  • 表面法
  • 斜角法

アコースティックエミッション法(AE法)

構造物に機器を設置し、ひび割れが発生時の弾性波を検出する受動的な手法です。

その他の手法が、調査時点での欠陥の有無を調べる手法なのに対して、AE法は、構造物を連続監視することで、ひび割れの発生や進展を確認することができます。

弾性波法の特徴と原理

弾性波は、性質の異なる物質との境界面において、エネルギーの一部が反射する性質を持っていて、弾性波法の原理は、その性質を利用したものです。

コンクリートへ放射した弾性波は、直進・反射・回折をしながら内部へ拡散していき、コンクリート内部のひび割れや空洞に到達すると、エネルギーの99.98%が反射します。

この性質を利用し、次のような変化を測定します。

  • 伝播…垂直ひび割れや空洞がある場合、伝播時間が変化する
  • 共振…水平ひび割れや内部空洞がある場合、共振周波数が変化する
  • 回折…表面ひび割れがある場合、弾性波の位相が変化する
  • 反射…表面剥離がある場合、弾性波が拡散せず、大きな振幅となる

弾性波法は、「コンクリートに弾性波を伝播する発生機器」と「伝播した弾性波を検出する受信機器」、「受信した弾性波を波形に変換・表示するモニター」を使用します。

弾性波法の測定精度

弾性波法では、使用する弾性波の周波数によって、測定可能な距離や精度が変わります。

  • 高周波…50kHz以上の場合、測定距離は2~3mが限界。小さい欠陥も検出可能
  • 低周波…数kHzの場合、10m以上を測定可能。検出できる欠陥の寸法は大きい

弾性波法の測定精度は、次によって決まります。

測定機器の時間分解能・周波数分解能・読取り精度

また、構造物の状態や測定環境による誤差も影響を及ぼします。

  • コンクリート品質の局部的なバラつき
  • コンクリート表面の劣化
  • コンクリートの含水状態
  • 内部にある鋼材の影響
  • 振動や騒音などのノイズ

弾性波は、理論的に適用できる範囲は広いですが、実用的な限界例は次のようになります。

  • 欠陥が重層している…表面付近の欠陥部において弾性波が反射してしまうため、その奥にある欠陥の有無は検出できない
  • 複雑な形状の欠陥…複雑な形状の場合、共振周波数が生じなくなるため、明確な波形が現れず評価が困難となる
  • 欠陥の寸法…欠陥の深さ以下の小さい寸法の欠陥は、検出できない

アコースティックエミッション法(AE法)の特徴と原理

ほかの手法と違い、AE法では、コンクリートに弾性波を放射しません。

AE法で測定する弾性波は、コンクリート内部でひび割れが発生した時に生じる、微小な弾性波を検知します。

A複数のAE変換子を使用する事で、ひび割れの平面位置を解析する事ができます(AE標定解析)。

各AE変換子に到達するまでの時間差から、AE発生源の位置を割り出す解析方法で、一般的な機器では数mmの誤差とされています。

AE測定の計測機器は、弾性波を捉えるAE変換子・AE信号を増幅するアンプ・捉えた信号を選別するフィルタから成り立っています。

一般的な計測機器のパラメータには次のようなものがあります。

  • AEカウント数
  • AE尖頭値
  • 立ち上がり時間
  • 信号継続時間 周波数成分

AE測定での注目点は、AEカウント数の増加にあります。また、その信号が有意なAEであるのかを判別することが必要となります。

AE法の目的は、許容範囲内の荷重によって「有意なAEの発生がないこと」を確認することです。

カイザー効果

繰り返し荷重を受ける構造物では、AEが発生した時の荷重を超える荷重を受けない限り、AEは発生しないという不可逆現象があります。特に、ひび割れ幅が小さい場合に、カイザー効果が表れます。

振幅分布

AE計測のデータにおいて、構造物の疲労が進行するにつれ、計測されたAEの振幅幅が大きくなる事が分かっています。

疲労によって構造物の健全度が低下すると、ひび割れ発生時の振幅(弾性波)が大きくなり、ひび割れが進んでいると判断できます。

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