アルカリシリカ反応とはアルカリ骨材反応の1つで、骨材中のある種類の鉱物とコンクリート中のアルカリ分が反応することで起こる劣化現象です。
1980年代にコンクリート構造物のひび割れが多発するようになり、その原因の一つとなったのが、アルカリ骨材反応によるひび割れでした。
そこで、アルカリ骨材反応について対策方法を国が定め、アルカリ骨材反応抑制対策について通達を出し、現在に至っています。
この記事では、コンクリートのアルカリシリカ反応について、原因・対策・試験方法などわかりやすく解説していきます。
アルカリシリカ反応は、反応性のある骨材によって起こる
アルカリシリカ反応は、元々はアルカリ骨材反応の1種類とされていて、
これらをまとめて「アルカリ骨材反応」と理解されていましたが、現在では、日本で確認されるアルカリ骨材反応は、ほぼアルカリシリカ反応(ASR)であることが分かっています。
そのため今は、アルカリ骨材反応=アルカリシリカ反応という認識が一般的に広まっています。
アルカリシリカ反応(ASR)は化学反応によって起こる
アルカリシリカ反応は、コンクリート中のアルカリ分(Na2O、K2O)と骨材中の反応性シリカ鉱物(nSiO2)が反応して、シリカゲルが生成されます。
nSiO2(シリカ)+2NaOH(アルカリ)→Na2O・nSiO2(アルカリシリカゲル)+H2O |
さらにシリカゲルが水を吸収して、コンクリート内部で膨張をおこし、生成した時の圧力と吸水膨張した時の圧力によって、内部からひび割れを発生させます。
反応が「アルカリ」と「シリカ」によって起こるため、アルカリシリカ反応と呼ばれています。
アルカリシリカ反応(ASR)には3つの条件が必要
ここで、アルカリシリカ反応が起こるための条件について説明します。
反応性シリカがアルカリと化学反応を起こし、水を吸水して膨張をおこすため、3つの条件が同時に存在した時に、アルカリシリカ反応による膨張がおこります。
そのため3つの条件のいずれかを対策すれば、アルカリシリカ反応によるひび割れは防ぐことができるというのが、アルカリシリカ反応抑制対策の考え方になります。
アルカリシリカ反応抑制対策の3つの方法
平成14年に通達された「アルカリ骨材反応抑制対策(国土交通省通達)」を受け、平成15年改正のJIS A 5308で「アルカリシリカ反応抑制対策の方法」が規定されました。
通達ではアルカリ骨材反応となっていますが、国内ではアルカリシリカ反応しか確認されていないため、「アルカリ骨材反応抑制対策=アルカリシリカ反応抑制対策」という認識で良いでしょう。
対策方法には、3つの区分(方法)が規定されていますので、対策の方法について確認していきましょう。
a)コンクリート中のアルカリ総量を規制する抑制対策
コンクリートに含まれるアルカリを、反応を起こすのに十分な量以下に抑えることで対策をするという方法です。
コンクリートの各材料に含まれるアルカリ量(Na2O)を計算し、合計が3.0kg/㎥(規定値)以下であることを確認する。
Rt= | Rc+Ra+Rs+Rm+Rp+Rr |
Rt: | コンクリート中に含まれるアルカリ総量(kg/㎥) |
Rc: | セメントに含まれる全アルカリ(kg/㎥) |
=セメント量(kg/㎥)×セメント中の全アルカリ※(%)/100 | |
Ra: | 混和材に含まれる全アルカリ(kg/㎥) |
=混和材量(kg/㎥)×セメント中の全アルカリ※(%)/100 | |
Rs: | 骨材に含まれる全アルカリ(kg/㎥) |
=骨材量(kg/㎥)×骨材中のNaCl量×0.53◎(%)/100 | |
Rm: | 混和剤に含まれる全アルカリ(kg/㎥)=混和剤量(kg/㎥)×混和剤中の全アルカリ量※(%)/100 |
Rp: | 流動化剤に含まれる全アルカリ(kg/㎥) |
=流動化量(kg/㎥)×流動化中の全アルカリ量※(%)/100 | |
Rr: | 安定化剤に含まれる全アルカリ(kg/㎥) |
この中で使用していない材料は計算から除外します。
※Na2OとK2Oの合計が全アルカリですが、Na2O量として計算するためにK2OをNa2O量に換算します。
全アルカリ量(Na2Oeq)=Na2O+K2O→Na2O+0.658K2O(K2OをNa2Oに換算) |
◎骨材に含まれる全アルカリは、塩化ナトリウム(NaCl)量中の、アルカリ量を算出するために×0.53
b)アルカリシリカ反応抑制効果のある混合セメントなどを使用する抑制対策
コンクリート中の全アルカリ量は、一般にポルトランドセメントに含まれる量が一番多いですが、
- セメント中のポルトランドセメントの絶対量が減るため、アルカリ量が抑えられる
- 水和反応で水酸化カルシウムを消費するため、コンクリート中のアルカリ量が減る
という効果で対策をするという方法で、使用できるセメントの種類が規定されています。
JIS R 5211高炉セメントB種・C種 | 高炉スラグの分量(質量分率%)40%以上 |
JIS R 5213フライアッシュセメントB種・C種 | フライアッシュの分量(質量分率%)15%以上 |
混合セメントとしてではなく「ポルトランドセメント+混和材」として、高炉スラグ微粉末・フライアッシュを使用する場合は、併用するポルトランドセメントとの組合せで、アルカリシリカ反応抑制効果がある事を確認された単位量で使用する。
c)安全と認められる骨材を使用する抑制対策
アルカリシリカ反応(ASR)は、骨材中に一定量以上の反応性鉱物が含まれていることが条件となります。
そのため、試験によって骨材の反応性を調べ「無害=安全であると認められる」骨材を使用して対策をするという方法です。アルカリシリカ反応性の試験は、
の2種類が規定されています。
どちらの試験も規定値以内であれば「無害(区分A)」であると判定し、規定値以外であれば「無害でない(区分B)」と判定する。
また、化学法で「無害でない」と判定された場合でも、モルタルバー法で「無害」と判定された場合、その骨材を無害と認められる骨材として取り扱ってよい。
アルカリシリカ反応の強弱は、反応性骨材の量が増えるほど膨張量が増大するわけでなく、膨張量が最大となる骨材量(ペシマム量)というものがあります。
そのため、「無害の骨材」と「無害でない骨材」を混ぜて使用する場合では、混ぜ合わせた全体を「無害でない」としなければなりません。
ASRと間違えられるエトリンガイトの遅延生成(DEF)とは
欧米で「Delayed Ettringite Formation」として事例が報告されていて、日本語で「エトリンガイトの遅延生成」と訳しています。
日本国内では、高温でコンクリートを養生する二次製品において発生事例が確認されています。
エトリンガイトとは、セメントの水和反応によって生成される水和物で、膨張性があるという特徴を持っています。
そのエトリンガイトが「遅延生成=あとから発生する」ことによる現象が「エトリンガイトの遅延生成」です。
セメントの水和反応によって生成されたエトリンガイトは、通常は安定した水和物としてコンクリート内部に存在しますが、70℃以上の高温になると分解され、硫酸イオンを発生します。
硫酸イオンは、いったん水酸化カルシウムなど他の水和物に吸着されますが、長期間水分の供給が続くと、水和物から離れてしまいます。
水和物から離れた硫酸イオンは水和反応を起こし、エトリンガイトを再生成します。その膨張力によって、コンクリート内部からひび割れを起こします。
「DEFによるひび割れ」と「ASRによるひび割れ」の形状が似ていることから、間違えやすい現象となっています。
コメント
いつも、拝見させて頂き、勉強させて頂いております。
以下の部分で記述間違いと思われるのがありますので、確認願います。
a) コンクリート中のアルカリ総量を規制する抑制対策
Ra: 混和材に含まれる全アルカリ(kg/㎥)
=混和材量(kg/㎥)×セメント中の全アルカリ※(%)/100
→=混和材量(kg/㎥)×混和材中の全アルカリ※(%)/100
以上よろしくお願いいたします。
コメントありがとうございます。ご指摘の通りです。
コピペしたまま打ち直さず、というケアレスミスですね…