コンクリートの鉄筋腐食診断 自然電位 分極抵抗 電気抵抗 腐食量調査

診断

鉄筋コンクリート構造物にとって、コンクリート内部の鉄筋腐食は、構造物の耐久性評価において重要な指標となります。

そのため鉄筋腐食の有無はもちろん、腐食のしやすさ、腐食していた場合(腐食が始まった場合)の進行速度などを把握することが、構造物の診断において重要となります。

鉄筋腐食についての評価方法として、次の方法があります。

  • 腐食量
    • 鉄筋の腐食面積・質量を評価
  • 電気抵抗
    • 腐食のしやすさを評価
  • 分極抵抗
    • 腐食の速度を評価
  • 自然電位
    • 腐食の可能性を評価

コンクリート内部の鉄筋腐食の原因となる塩害、コンクリートに含まれる塩化物量の測定方法についてはこちらこちらの記事で説明しています。

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鉄筋の腐食量調査

構造物から取り出した鉄筋の腐食状況を、実測により評価します。

  • サビの発生した面積の測定
  • サビによる質量減少量の測定

腐食面積率(%)=鉄筋の腐食面積/鉄筋の表面積×100

鉄筋の腐食状況を展開図として正確に写し取ります。腐食部分を、プラニメーターや画像処理装置などで測定し、腐食面積とします。

腐食面積率が高い場合は、かぶり厚さや環境条件を考慮しなければなりませんが、コンクリートの耐久性能が低下している可能性が考えられます。

鉄筋の質量減少率(%)=腐食前の鉄筋質量/腐食後の鉄筋質量×100

取り出した鉄筋を、60℃の10%クエン酸ニアンモニウム溶液に数日間漬け置きした後、表面のサビを流水やゴムヘラなどで除去・乾燥させて質量を測定し、腐食後の鉄筋質量とします。腐食前の鉄筋質量は、計算上の質量もしくは、同じ鉄筋の未腐食部の質量を用います。

質量減少率が高い場合は、取り出した部材の位置を考慮しなければなりませんが、耐荷性能が低下している可能性が考えられます。また、質量減少が集中している箇所がある場合は、コンクリートのひび割れ位置と相関が高い場合が多いと考えられます。

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鉄筋コンクリートの電気抵抗調査

コンクリート内部の鉄筋腐食では、アノード域(陽極)とカソード域(陰極)の間で腐食電流が流れ、腐食が進みます。コンクリートの電気抵抗(電気の通しやすさ)が腐食に関係し、マクロセル腐食の場合は、特にその影響が大きくなります。

そのため、コンクリートの電気抵抗を測定することで、鉄筋の腐食性(腐食のしやすさ)を評価することができます。

電気抵抗=コンクリート内のイオンの流れやすさ

鉄筋腐食では、イオンの流れが早いほど腐食が早く進むため、電気抵抗は「腐食電流の大きさを支配している」と言えます。電気抵抗は、主に以下の影響により変動します。

  • コンクリートの含水量
  • 塩類(塩化物イオン等)の含有量
  • コンクリートの組成・細孔構造

電気抵抗の測定方法

電気抵抗の測定方法には、4本の電極を使用し、電流と電位差から比抵抗を測定する「四点電極法」があります。

四本の電極を等しい間隔a(m)で配置します。電流電極(C1,C2)の間に電流Iを流し、電位電極(P1, P2)の電位差Vを測定します。測定値を用いて図内の式より、比抵抗(ρ)が求まります。

鉄筋コンクリートの自然電位調査

鉄筋の腐食は、電子・イオンの移動によって起こる電気化学的反応です。

鉄原子は、アノード域(陽極)で電子(2e)を失い、鉄イオン(Fe2+)としてコンクリート中に溶け出します。残った電子は、カソード域(陰極)まで鉄筋中を流れ、水や酸素と結合します。

鉄筋の腐食では、電位に変化が生じ、電子やイオンの移動(腐食電流)が発生します。

自然電位法は、腐食によって生じた電位の低下を測定し、現時点での鉄筋腐食の可能性を評価するため、腐食劣化の初期段階に有効です。

自然電位の測定方法

照合電極と電圧計を使用し、照合電極に対する鉄筋の電位を計測します。腐食した鉄筋のアノード部は-(マイナス)の電位になるため、負の電位を測定することで鉄筋の腐食を評価します。

自然電位の測定手順
  • 測定箇所の選定

    測定箇所のコンクリートを一部はつり、鉄筋を露出させる

  • 測定準備

    測定前(30分程度)に、コンクリート表面を散水などで濡らす

  • 機器の設置

    電位差径のプラス(+)端子を鉄筋、マイナス(-)端子を照合電極に接続する

  • 測定

    照合電極の先端に、濡らしたスポンジを巻き付け、コンクリート表面に押し当てる

  • 測定注意点
    • 100~300㎜間隔程度の複数個所で行う
    • 測定中も散水を行い、コンクリート表面を乾かさない
    • 自然電位は1mV 単位まで測定する
    • 電位と同時に温度も測定する

「コンクリート表面が乾燥している・塗装などによって被覆されている」などの電気的に絶縁体に近い場合や、「鉄筋の表面が、亜鉛めっき・エポキシ樹脂塗装などでコーティングされている」場合では適用できません。

コンクリート中の鉄筋の測定には、表のような照合電極が使用されます。

電極の種類略称電位(V)[温度補正係数]
銅硫酸銅電極(飽和)CSE+0.316+0.00090(t-25)
銀塩化銀電極(飽和)Ag/AgCl+0.196-0.00110(t-25)
鉛電極PRE-0.483+0.00024(t-25)
t:測定時の温度(℃)

表の電位は、標準水素電極に対する電位を表していて、標準水素電極が0Vとした場合の各電極の電位を指しています。

測定結果は、等電位線図や累積度数頻度図などで整理します。使用する電極ごとに電位が違うため、測定結果には測定値と使用電極を併記(例:-0.5VvsCSE)し、測定電位を明確にします。

自然電位の評価方法

自然電位による鉄筋の腐食性評価は、ASTM C 876(1977.アメリカ)の評価基準によって判定します。

自然電位(E) (V vs CSE)鉄筋腐食の可能性
-0.20<E90%以上の確率で腐食なし
-0.35<E≦-0.20不確定
E≦-0.3590%以上の確率で腐食あり

実際の構造物調査では、自然電位による判定を確認するためコンクリートの一部をはつり、鉄筋の腐食状態を目視によって確認します。

この時、測定した自然電位の結果をもとに、腐食可能性の最も高い位置または、もっとも健全であると推定された位置を目視調査することによって、自然電位での判定を合理的に評価することができます。

鉄筋コンクリートの分極抵抗調査

分極とは、鉄筋に電流(⊿I)が出入りすることによって生じる電位(⊿E)のズレを言い、微小な変化の場合、電流と電圧の関係は直線式(オームの法則)で表せます。

オームの法則:⊿E(電圧)=⊿I(電流)×抵抗(Rp)

この式中のRpは、抵抗(電流の通しやすさ)に相当するため、Rpを分極抵抗と呼びます。

分極抵抗法は、「分極抵抗の逆数」と「鉄筋の腐食速度」が比例関係にあることを利用し、鉄筋の腐食速度を推定する電気化学的方法です。

Icorr=K・1/Rp

Icorr:腐食電流密度(腐食速度)(A/㎠),K:換算係数(V),Rp:分極抵抗(Ω・㎠)である。

腐食電流密度(Icorr)は腐食電流に相当し、換算係数(K)は物質の種類や環境条件による比例定数で、コンクリート中の鉄筋の場合、0.026Vが用いられる。

分極抵抗の方法は、直流法と交流法に大別され、コンクリート中の鉄筋を対象とする場合、交流法が主流となっています。

  • 交流インピーダンス法
  • 交流矩型波電流分極法

分極抵抗の測定方法

交流法では「周波数の違いによって電流の流れる経路が異なる」という電気的特性を利用し、分極抵抗を測定します。

コンクリート中の鉄筋の分極抵抗を測定する場合、3電極方式で測定します。

3電極方式では、対極と照合電極からなるセンサーをコンクリート表面に押し当て、内部の鉄筋に向かって電流を流します。3つの電極を使用するため、3電極方式と呼ばれます。

3電極方式
  • 試料極となる鉄筋
  • 電流を流すための対極
  • 電位を測定するための照合電極

電流によって外部電極の電位が変化することで、鉄筋の電位(⊿E)も変化し、微小電流(⊿I)が鉄筋に生じます。この時の電位と電流の変化(Rp =⊿E/⊿I)から分極抵抗を求めます。

分極抵抗の測定手順
  • 鉄筋探査

    調査範囲内の鉄筋位置を探し、鉄筋径・かぶり等を記録する

  • コンクリート表面を濡らす

    コンクリート面の散水などをしてセンサーとの接触抵抗を小さくする

  • 機器のセット

    鉄筋と測定器を接続し、コンクリート表面にセンサーを押し当てる

  • 自然電位の測定

    自然電位を測定し記録する

  • 分極抵抗の測定

    高低2周波数を用いて見かけの分極抵抗を測定し記録する

分極抵抗の測定では、対象とする鉄筋に対して一様に測定電流を流すことが重要で、以下の様な注意点があります。

  • コンクリートにひび割れ・うき・剥離のない箇所を選定する
  • 内部鉄筋の接続箇所は、サビなどを除去し、導通を確保する
  • 電気抵抗の高い材料(エポキシ樹脂塗装・断面修復材など)の箇所は避ける
  • 強い磁場が作用している、迷走電流が存在する箇所は避ける
  • コンクリート表面との接触抵抗を小さくする(表面を平滑・湿潤状態にする)

また分極抵抗法を行う際の注意点として、強い電流を流すと鉄筋の腐食が進行してしまうため、なるべく弱い電流で測定することが求められます。

分極抵抗による腐食速度の評価

腐食速度の評価方法については規格化されたものは現状ではありません。

機器によってセンサーの大きさや周波数の設定値が異なることや、測定によって得られた見かけの分極抵抗から、単位面積当たりの真の分極抵抗値を算出する必要がありますが、電流の影響を受けた鉄筋の表面積、つまり測定対象面積をどのように決定するかの基準がないからです。

測定された見かけの分極抵抗値を、腐食電流密度に換算します。腐食電流密度からファラデーの法則により、次のように換算することで、腐食速度として評価します。

  • 質量損失速度(㎎/㎠/年)
    • 一定期間(年)で、鉄筋がどのくらいサビるかを表した数値。 一般的な化学反応と違い、腐食反応は鉄筋の表面における反応のため、単位表面積当たりの腐食量(㎎/㎠)として考えます。
  • 侵食速度(㎜/年)
    • 質量損失速度をもとに、鉄筋が表面からどのくらいサビによって侵食(細く)なるかを表した数値。

ファラデーの法則を使った換算例

【ファラデーの第2法則】m / M = (I×t) / (z×F)
m [g]= 質量ここでは、質量損失速度 
M = 分子量=56(鉄の分子量)
I [A] = 電流=0.001(腐食電流密度を1mA/㎠と仮定)
t [s] = 時間=31536000(1年)
z = イオン価数=2
F = ファラデー定数=9.6485×104
m(質量損失速度) =(I×t) / (z×F)×M
  =[(0.001×31536000)/(2×96485)]×56
  =[31536/192970] ×56
   =[0.163424…]×56
  =9.15176…
  =9.2g/㎠/年
一年間に単位表面積当り、9.2gの鉄が分解(サビる)される=質量損失速度は9200(㎎/㎠/年)
侵食速度(㎜/年)=質量損失速度(㎎/㎠/年)/鉄の密度(g/cm3)
=9.2(g/cm2/年)/7.874(g/cm3)
=1.1684…×10(㎝を㎜に換算)
 =11.7㎜/年
質量損失速度が9200(㎎/㎠/年)であった場合、一年間で、鉄の表面から11.7㎜が侵食される。

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