コンクリートの火災による劣化「火害」のメカニズムとは?

診断

火害とは、火災における高温履歴によって、コンクリートや鉄筋の物性や化学的性質が変化すること。また、その性能が低下することをいいます。

一般に鉄筋コンクリート構造物は火に強く、木造や鉄骨造に比べ耐火性に優れた構造であるとされています。

木造は250℃で発火し、鉄骨造は500℃程度で変形するのに対して、鉄筋コンクリート造は1000℃の高温にさらされても2時間以上耐える性能を持っています。

一方、鉄筋コンクリートが火害を受けると爆裂と呼ばれる特異な破壊現象が起こります。爆裂は、高強度なコンクリートほど起こりやすいとされていて、他の劣化では起こらない火害特有の劣化現象です。

鉄筋腐食による剥落や凍害によるポップアウト・スケーリングと違い、ごく短時間でコンクリートがはじけ飛ぶように剥がれるのが爆裂の特徴です。

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鉄筋コンクリートが火災に遭うとどうなるのか?

火害の場合、火災時に受ける熱の大きさが重要となります。コンクリートが受けた熱の大きさを「受熱温度」と言い、受熱温度の上昇によって鉄筋コンクリートの性質も変化していきます。

火害の基本的なメカニズムは、受熱による「セメントペースト」と「骨材・空隙」の挙動が、互いに相反するために起こります。

  • セメントペースト…収縮する
  • 骨材・空隙…膨張する

受熱によってセメント水和物の結晶水が分離・蒸発によって失われるため、セメントペースト部分は収縮していきます。

一方、骨材部分は膨張していき、空隙内の自由水(遊離水)も蒸発によって膨張します。

収縮と膨張によって内部応力が大きくなり、コンクリート内部にひび割れが蓄積していくため、強度や弾性係数が低下していきます。

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受熱温度の上昇によるコンクリートの変化

  • 100℃~

    骨材・自由水の膨張とセメントペーストの収縮

  • 500℃~

    水酸化カルシウム(Ca(OH)2)の分解→アルカリ性の低下

  • 700℃~

    水和物が完全に脱水し不可逆変化となり、水和物が消失

  • 1200℃~

    長時間加熱されるとコンクリートの溶融が始まる

上記の現象がコンクリート表面から内部へと進展していくのが火害となります。

ここでひとつ重要なのが、コンクリートの受熱が表面から起こるということです。

コンクリートの熱伝導率は200℃を超えると急激に低下するため、表面温度と内部温度に差が生じ、表面と内部の熱膨張の差が大きくなります。

表面と内部の温度差(温度勾配)が内部の熱応力を増大させる要因の一つでもあり、耐火性が高い理由でもあります。

骨材の岩種による耐火性の違い

受熱温度とともに耐火性に大きく影響するのが、骨材の岩種になります。

コンクリートの大部分(70%程度)は骨材によって構成されているため、骨材自体の耐火性がコンクリートの耐火性に関係しています。

コンクリート用骨材として一般的に使われている岩種には、次のようなものがあります。

  • 安山岩
  • 玄武岩
  • 石灰岩
  • 花崗岩
  • (硬質)砂岩

安山岩・玄武岩などは、高温環境下においても安定していて耐火性があります。

石英を含んだ花崗岩や砂岩系は、570℃程度から急激に膨張するため耐火性は劣ります。

石灰岩は、600℃以上で脱炭酸によって分解されるため耐火性は劣ります。

火災による強度への影響は?

加熱によるコンクリートと鉄筋の強度低下は、材料や配合によってバラつきはあるものの、受熱温度に対して一定の傾向を示します。

さらに加熱時に低下した強度は、月日が経てばある程度は自然に回復することが分かっていて、強度の回復程度も受熱温度で一定の傾向を示します。

加熱によるコンクリートの強度低下

300℃までは強度の低下は緩やかだが、それ以降は大きく低下し、500℃でほぼ半分まで低下します。弾性係数は強度よりも低下が大きく、500℃まで直線的に低下し、元々の値の20%程度以下まで低下します。

加熱後のコンクリートの強度回復

500℃以内であれば、火災前の90%程度まで強度は回復し、再使用に耐えうるとされていますが、高強度のコンクリートの場合は、強度の回復が少ないというデータもあります。

一方、弾性係数もある程度回復するが、強度に比べて回復の度合いが小さく、加熱後のコンクリートにはもろさが残ります。

加熱による鉄筋の強度低下と強度回復

コンクリートに比べて鉄筋の加熱による影響は小さく、500℃以下であれば、強度や弾性係数の低下は小さく、加熱後にほぼ回復します。

ただし、受熱温度が100℃を超えた時点で、コンクリートと鉄筋の熱膨張率の差が大きくなるため、コンクリートの付着強度の低下は大きくなります。

コンクリートの爆裂のメカニズムとは?

鉄筋コンクリート部材は火災の初期段階で、鉄筋のかぶりコンクリートがはじけ飛ぶように剥落し、鉄筋の露出が生じる「爆裂」という現象が起きます。

コンクリートが高強度であるほど内部組織が緻密となり、爆裂が起こりやすいとされています。

爆裂の原因として
  • 加熱による水蒸気圧
  • 温度勾配による内部応力
  • コンクリートと鉄筋の膨張量の差による拘束応力
  • 骨材の熱膨張や化学的性質の変化
  • セメントペーストと骨材の挙動の相違

爆裂現象の説明には、

  • 熱応力説
  • 蒸気圧応力説

があります。

熱応力説

コンクリート表面と内部の温度勾配を要因とする説です。

火災時に、高温状態のコンクリート表面は膨張を起こしますが、コンクリート内部は温度が低いため膨張を起こしません。

表面付近の熱膨張は周囲の部材によって拘束されるため、加熱された表面付近には圧縮応力がかかります。

この圧縮応力がコンクリートの圧縮強度を上回ることで爆裂が起こるというのが、熱応力説です。

蒸気圧応力説

コンクリート内部の水蒸気圧を要因とする説です。

火災時に、コンクリート表面は加熱によって乾燥していき、表面付近は乾燥した層になります。その内側は、水蒸気や自由水で満たされた飽和層が形成されます。

水分の蒸発が乾燥層と飽和層の境目で継続すると、水蒸気は飽和層へは移動できないため、志田に水蒸気圧が高まります。

この水蒸気圧がコンクリートの引張強度を上回ることで爆裂がおこるというのが、蒸気圧応力説です。

このふたつの説のどちらが支配的なのかについては、はっきりとした答えは出ておらず、複合作用が働いているとされています。

爆裂防止の対策には合成短繊維が用いられる

コンクリートの爆裂対策としてよく用いられるのが、ポリプロピレン繊維やポリビニルアルコール繊維などの合成短繊維です。

長さ10~20㎜・直径0.02~0.3㎜程度の物が多く、爆裂防止以外にも乾燥収縮ひび割れの防止などでも用いられます。

合成短繊維がなぜ爆裂防止に有効なのかというと、火災時の高温によってコンクリート内部の合成短繊維が溶けます。

合成短繊維が溶けた部分は空隙となり、火災時の蒸気圧応力を軽減するためとされています。

火災を受けたコンクリートは変色により受熱温度が推定できる

火害(火災による劣化)を受けたコンクリートの特徴として、変色があります。

コンクリート表面が熱により変色し、受熱温度の違いによってコンクリートの色相に違いが発生します。

コンクリート表面の変色受熱温度の範囲(℃)
黒(表面にすすが付着している状態)300未満
ピンク300~600
灰色600~950
淡い黄色950~1200
溶融状態1200以上

火害により、鉄筋コンクリート構造物は、コンクリートのひび割れ・剥落や強度低下、鉄筋の強度低下、高温による水和生成物の分解による中性化の進行を招きます。

劣化の程度や材料特性の変化は、受熱温度の大きさによって異なるため、コンクリートの受熱温度を推定することは火害を診断する上で、重要なファクターとなります

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