コンクリートに目地を入れる理由
目地とはコンクリートの躯体にある直線状の区切り線のようなものを指します。コンクリート舗装の駐車場や土間、マンションの外壁などに一定間隔で入っている隙間が「目地」になります。
コンクリートは硬化すると固まったまま形が変わらないと思われるかもしれませんが、硬化した後も乾燥や温度によって膨張や収縮をする性質があります。
コンクリートは圧縮力には強いですが引張り力には弱く、膨張や収縮による引張応力によってひび割れが発生します。
目地とは、引張応力によってコンクリートがひび割れるのを防ぐためのもので、いくつか種類があります。
コンクリートに入れる目地の種類
コンクリート構造物に目地が必要であることは分かりましたが、目地には目的に応じて種類があります。
ひび割れ誘発目地と伸縮目地の違い
コンクリートのひび割れ誘発目地と伸縮目地にはそれぞれ異なる目的があります。
ひび割れ誘発目地は、硬化初期の段階におけるひび割れ(乾燥収縮・マスコン)を目的とし、伸縮目地は供用期間中のコンクリートの変形によるひび割れ(温度による膨張)を目的としています。
ひび割れ誘発目地と伸縮目地ではコンクリートの躯体に大きな違いがあります。
ひび割れ誘発目地は、コンクリートの一部を断面欠損させますが鉄筋は繋がっているため、構造体は一体化しています。コンクリートの断面を一部細くすることで応力を集中させ、ひび割れを目地部分に誘導します。
伸縮目地は構造体が完全に分かれた状態で、構造体同士の隙間が目地になります。コンクリートの変形(膨張)に対して隙間を作ることで変形を吸収します。
打継ぎ目地
コンクリートを打ち継いだ際にできる目地のことです。打継ぎ部はコンクリートの特性上、一体化しないため、目地を設けて止水処理を行います。
打継ぎ・打重ねについてはこちらの記事で解説しています。
化粧目地
字の通り、仕上げ作業でできる目地のことです。構造的な意味はなく美観上、建物の装飾のための目地なので化粧目地と呼びます。
Vカット目地
Vカットとは、コンクリートに入れたV字の切れ込みのことを言い、ひび割れ誘発目地と同様にひび割れを誘導させることが目的です。
面木・目地棒などを使用し、コンクリート表面にV字形の切れ込みを入れることで、コンクリートの断面が一部欠損するため、Vカット部分に応力を集中させてひび割れを制御することができます。
切れ込みの深さが足りないと上手くひび割れを制御できない点や深すぎるとかぶり厚さや部材耐力の不足を招くといった懸念があります。
また、コンクリートのひび割れ補修の際に、専用のコンクリートカッターでひび割れ箇所を切り取る場合の作業もVカット工法と呼びます。
(構造・耐震)スリットと目地の違いとは
目地とよく似たものに「スリット」があります。
目地とは目的は違いますが、コンクリートを区切るという意味では同じようなもので、コンクリート同士を縁切れ=隙間を作ることを言います。
構造設計上必要な個所に入れるため、構造スリットと呼ぶこともあれば、地震時の挙動を制御するために入れるため、耐震スリットと呼ぶこともあります。耐震スリット・構造スリットはどちらも同じものと理解してください。
スリットには、コンクリートのひび割れ防止ではなく、安全性を確保する目的があります。
柱の短柱化防止
水平荷重に対して、柱は変形しながら対応します。
変形能力には柱の長さが関係し、柱に腰壁や垂れ壁が取り付いた場合、柱の変形可能な範囲が狭まり、せん断破壊を引き起こします。そのため柱に取り付いた二次壁(強度上、必要のない壁)はスリットによって縁切れをし、柱の変形範囲を確保します。
構造壁化防止
建物の剛心と重心にズレがあることを偏心と呼びます。
水平荷重が加わった時、構造物の偏心が大きいと建物には回転力=ねじれが生じ、曲げ・せん断破壊を引き起こします。そのため偏心を制御するため、構造壁の一部に対してスリットを設け、建物の偏心を小さくします。
偏心とは「剛心=強度の中心」と「重心=構造物の重さの中心」が離れていること。ビルなどでは前面の壁が少なく背面は壁で囲まれる事がよくあります。そのため、前面と背面の剛性に差が生じるため、背面側にスリットを設け偏心を小さくします。
スリットは「応力の均等化・偏心及び剛性の改善・変形性能の向上」を目的とし施工され、構造物の耐震性能・安全性を確保します。
エキスパンションジョイントとは
スリットと似たものにクリアランス(隙間)もあります。構造特性の異なる建物を接続する場合の接合方法で、地震・温度変化による伸縮・不動沈下などによる変形を吸収し、損傷を最小限に留めるための装置です。
クリアランスはエキスパンションジョイントと呼ばれる接合器具で繋ぎ建物を一体化します。
出典:カネソウ工業株式会社
コンクリート目地の施工方法と目地材の種類
ひび割れ誘発目地
ひび割れ誘発目地の施工方法は、コンクリートの打ち込み前に鉄筋及び型枠に固定し、上図のようにコンクリートの断面を横断するように取り付けます。
目地の断面欠損率の計算方法
ひび割れを誘導するためには、目地の断面欠損率を確実に確保することが重要で、仕様書では欠損率の規定があります。
辺長比(l/h)とは、目地間隔(l)を部材高さ(h)で割った値のことです。
建築構造物の場合、土木構造物と比べて断面が小さく、目地板・溝の長さを確保するのが難しいため、欠損率は小さくなっていますが、目地間隔は土木と比べて狭くなっているため、目地の深さではなく目地の本数でひび割れを制御するという違いがあります。
コンクリートのひび割れ誘発目地における断面欠損率の計算方法は、以下の式で求められます。
断面欠損率 = 誘発目地長さ(a:溝+b:目地板)/d:全壁厚 × 100
断面欠損率とは、表面の溝部分の深さと部材内に設置した目地板の長さの合計を壁の厚さで割った値になります。
溝と目地板によってコンクリートを一部分薄くし、その薄さが土木の場合50%以上=つまり半分以下の薄さにするということです。
伸縮目地
伸縮目地の施工方法は、上の図の様に土間やスラブを一定の区画に目地で囲み、区画された板になるように設置します。目地が全断面に入らないと目地下でコンクリートがつながってしまうため、コンクリートを絶縁することが重要です。
伸縮目地は、2種類に大別できます。
乾式と湿式の違いは、目地材の固定に水分を含む材料を使用するかどうかです。
伸縮目地材の割付け間隔
割付けとは、目地材の設置場所・設置間隔のことを言います。
「共建築工事標準仕様書」及び「建築工事標準仕様書・同解説 JASS 8 防水工事」では、目地の設置間隔は3000㎜程度、塔屋やパラペットなどの立上り際からは600㎜以内に設けるとされています。
また断熱施工や寒冷地の場合は温度差が大きくなるため、目地の割付けを2.5m程度にするなどの処置をとることが望ましいともされています。
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