コンクリート構造物の劣化診断では、目視によるひび割れや変状の確認、書類や立地・使用状況などから、劣化原因を推測します。
推測した劣化原因について、さらに詳細な調査を行い、劣化原因を推定し、今後の劣化予測や構造物の劣化度・健全度の判定・評価を行い、補修補強の是非を決定します。
劣化原因の推定には、目に見えるひび割れ・サビなど以外のコンクリートの化学的変化を確かめることで、推定した劣化原因が確かなものかを評価する必要があります。
この記事では、コンクリート構造物の劣化調査における、粉末X線回折・蛍光X線分析(XRF)・示差熱重量分析(DTA・TGA)について説明します。
粉末X線回折
粉末X線回折は、固体に含まれる物質の種類について、成分(定性)・量(定量)分析をすることができます。
X線結晶構造解析(X線回折)の一種で、粉末状にした試料にX線を照射し測定することで、鉱物の種類を判別する解析方法です。
また化学結合を分析するため、化合物の結晶構造の違いや配向性まで分析することができますが、非晶質であるガラスなどは分析が困難となります。
回折現象とは
試料にX線を照射した時に生じる回折現象を利用し、分析を行います。
物質にX線を入射すると、原子の周りにある電子によってX線が散乱されます。この時、X線が反射する角度(2θ)は物質の結晶構造によって固有の角度を持ちます。
結晶構造が物質に固有であることを利用し、X線の散乱角の位置と強度を測定し、既知の回折データと比較する事で、主に無機化合物の同定が可能となります。
粉末X線回折解析の流れ
分析対象を乳鉢などですりつぶし、粒を感じない程度まで微粉砕し試料とします。
照射角度を変えながら連続的にX線を試料に照射し、回折X線の強度を測定します。回折角度と強度は物質によって固有のため、ある特定の角度の時、強い強度(ピーク)が現れます。
このピークをもとに、実測により得たパターンと既知の分析パターンを照合することで、物質の同定を行います。既知の分析パターンのデータとしては、ICDD(国際回折データセンター)による標準パターンなどが用いられます。
蛍光X線分析(XRF)
蛍光X線分析は、固体に含まれる物質の種類について、成分(定性)・量(定量)分析をすることができます。
X線を試料に照射し発生する蛍光X線の、エネルギーや強度を利用します。蛍光X線は、元素ごとに固有のエネルギーを持ち、強度は元素の量に関係していることから、定性・定量分析を行う事ができます。
蛍光X線分析は、固体・液体・粉体を非破壊で分析することにも適しています。
蛍光X線とは
- 物質にX線を照射すると、X線は物質内を透過します。
- その時、物質を構成している原子の内殻電子が原子の外へはじき出され、空孔が発生します。
- 電子を失った内殻はエネルギー的に不安定となり、安定化のため外殻電子が空孔へと入ります。
- 外殻電子が内殻の空孔へと移動する時、余ったエネルギーがX線として放出され、これを蛍光X線と呼びます。
蛍光X線は、元素により固有のエネルギーを持つため、蛍光X線のエネルギー値と強度から、元素の定性・定量をすることが出来ます。
蛍光X線分析の流れ
試料を105℃程度で乾燥し、ジョークラッシャーで粗砕・縮分します。その後、ディスク型ミルによってセメント程度の粒子に微粉砕し、測定を行うために成形します。
成形方法は加圧成形法またはガラスビート法を用いて調整を行いますが、ハンディタイプの解析装置の場合、粉末試料用容器に試料を充填して測定します。
成形後の試料にX線を照射して得られた蛍光X線を測定します。定量分析を行うためには、標準試料をもとに蛍光X線強度と元素の含有量の関係を求め検量線を作る必要があります。
分析対象が未知試料である場合、実測した蛍光X線強度に一致するよう組成を推定する方法で分析を行います(これをFP法と呼ぶ)。
示差熱重量分析(DTA・TGA)
示差熱分析(Differential Thermal Analysis: DTA)と熱重量分析(Thermogravimetric Analysis: TGA)を同時に行う測定法です。
基準となる物質Aと対象試料Bを同時に加熱し、
- 示差熱分析(DTA)AとBの温度差の変化を測定
- 熱重量分析(TGA)AとBの重量差の変化を測定
二つの分析を同時に行うことによって、試料の熱的変化を観察することができます。
示差熱重量分析の原理
示差熱分析(DTA)では、溶融や相転移、結晶化などの発熱・吸熱反応を、熱重量分析(TGA)では、熱分解、脱水、酸化・還元などの重量変化を知ることが出来ます。
溶融や結晶化であれば、DTA曲線に変化が起こりますが、TGA曲線には反応が見られません。それに対して、脱水や化学反応が生じている場合、DTA曲線・TGA曲線の両者に変化が生まれます。
DTAとTGAを同時に測定し、どのような反応が生じたのかを推察することで、試料に含まれる物質を定量することができます。
示差熱重量分析(DTA・TGA)の流れ
試料を乳鉢などで微粉砕し、白金製・アルミニウム製などの容器に20mg程度入れます。
試料と参照物質(一般に酸化アルミニウムAl2O3)を炉内に入れ、天秤によって参照物質との重量差を測定し、熱伝対によって参照物質との温度差を測定します。
曲線が下向きになると、マイナス方向に動いていることを表しています。
点線で囲まれた部分では、吸熱をともなう化学反応によって、質量が減少していることが読み取れます。
コメント