鉄筋コンクリート(Reinforced Concrete)とは、コンクリートと鉄筋を組み合わせた建築材料のことを言い、高い強度・耐久性を持つため、建築現場で広く使用されています。
鉄筋コンクリートでは、コンクリートは主に圧縮強度を提供する役割を担っています。一方、鉄筋は主に引張強度を提供する役割を担っています。
建物には、人や重いものを床に乗せることで生じる「押す力=圧縮力」が加わることはイメージがしやすいと思いますが、コンクリートに引張り強度が必要な理由が、すぐにピンとくる人はそう多くないと思います。
引張力をイメージするために、消しゴムを思い浮かべてください。消しゴムをギュッと折り曲げると裂けてしまうのは分かりますね。これは、消しゴム中央を境目に圧縮と引張りの二つの力が加わっているからです。
この記事では、コンクリートに鉄筋を入れる理由やそのメリット、必要な鉄筋量、鉄筋を使用するようになった歴史について解説します。
コンクリートと鉄筋がお互いの弱点を補っている
鉄筋は、コンクリートの引張強度を補強するために使用されます。
コンクリートの強度と言うと、一般に圧縮強度(押される力に対する強さ)を指します。コンクリートの引張り強度は、圧縮強度の1/10程度と非常に小さく引張りに対して有効とは言えず、補強材が必要となります。
そのため引張り強度の大きい鉄筋が、コンクリートの引張強度を補強するために用いられています。
また単に引張り強度が大きいという理由だけでなく、コンクリートと鉄筋の熱膨張係数がほぼ等しく、一体性のある挙動を示すため、相性の良い組み合わせであると言えます。
線膨張係数とは、物質の温度変化に対する膨張の程度を表す数値です。
線膨張係数は、温度が1℃上昇するごとに物質の長さがどれだけ変化するかを表します。コンクリートの線膨張係数は7~13×10-6/℃、鉄筋の線膨張係数は11×10-6/℃とされています。
他にも、鉄筋とコンクリートと組み合わせるメリットがいくつかあるため、上記と合わせてまとめてみます。
このように、鉄筋とコンクリートが相互に弱点を補う役割を果たすことで、構造物の強度と耐久性を向上させています。
コンクリートに引張り強度が必要な理由
コンクリートに荷重(力)が加わった時、コンクリートには「圧縮力」と「引張力」が働きます。
無筋コンクリートの場合(図の上の例)、「引張力」に耐え切れず、コンクリートはポキッと折れるような破壊(ぜい性破壊)に至ります。
一方、鉄筋コンクリートの場合(図の下の例)、鉄筋が「引張力」を負担するため破壊に至りません。仮に過大な荷重が加わった場合でも、鉄筋が伸びることによって変形量を吸収し、建物の倒壊を防ぎ、安全性を確保しています。
構造物の倒壊を避けるため、コンクリートの圧縮破壊より先に鉄筋の引張破壊が起こるように設計を行うため、引張鉄筋量は「つりあい鉄筋比以下」となるように設計されています。
コンクリートの圧縮応力度と鉄筋の引張応力度が同時に許容労力度(限界点)に達する鉄筋量をつりあい鉄筋比と呼びます。
鉄筋がコンクリートの膨張・収縮を拘束することでひび割れを抑制する
コンクリートは様々な原因によって膨張・収縮を示し、コンクリートの引張強度を上回る応力が発生した場合、ひび割れが発生します。
コンクリートに鉄筋を入れることで、鉄筋がコンクリートの膨張・収縮を拘束します。それにより応力が分散され、ひび割れの発生を抑制、またはひび割れ幅を小さくします。
コンクリートが鉄筋を火やサビから守っている
コンクリートに鉄筋を入れるメリットとして、引張り強さを補強していることがここまでで分かりました。一方、鉄筋にとってのメリットにはどんなものがあるでしょうか…
- 鉄筋は火に弱いため、火に強いコンクリートで覆うことで守る
- 鉄筋はサビに弱いが、コンクリートで覆うことでサビを防ぐ
鉄筋は火に弱いため、火に強いコンクリートで覆うことで守る
鉄筋とコンクリートの耐火性能を、以下の3つの要素をもとに考えます。
- 引火性:火炎の発生のしやすさ=燃えやすさ
- 火炎伝播性:火炎の広がりやすさ
- 熱伝導率:熱の伝えやすさ
引火性・火炎伝播性は鉄筋、コンクリートともに耐火性を有していますが、熱伝導率に差があります。
- 鉄筋の熱伝導率:約50~60 W/(m・K)
- コンクリートの熱伝導率:約1.5~2.5 W/(m・K)
鉄筋は、コンクリートに比べて熱を伝えやすいため温度上昇速度が速いことが分かります。さらに鉄筋は、高温に弱く500℃程度で変形が始まり、900℃程度で溶融(溶ける)します。
一方、コンクリートは耐火性が高く、1000度の熱にも耐えることができます。そのため、鉄筋コンクリート構造物においては、コンクリートが鉄筋を保護することで、耐火性能を確保しています。
鉄筋はサビに弱いが、コンクリートで覆うことでサビを防ぐ
鉄はサビに弱く、空気と水分に触れることでサビが発生します。鉄はサビが発生すると体積減少が起こるため、徐々に細っていき、もろくなります。
コンクリートは通気性・透水性が低いため、鉄筋が空気や水分と触れることを防ぎ、サビから保護します。
また、コンクリート内の強アルカリ環境下においては、不動態被膜と呼ばれる保護膜が鉄筋周囲に形成されサビを防止します。
コンクリートに必要な鉄筋の量:計算方法と規格値
ここまで、コンクリートに鉄筋が必要な理由を説明しましたが、次はどのくらいの鉄筋がコンクリートに入っているかについて説明します。
コンクリートに必要な鉄筋量は建築基準法や設計基準によって規定されていますが、一般的には、鉄筋の断面積をコンクリートの断面積に対して一定の割合で設定します。
最小鉄筋量=鉄筋断面積/部材(コンクリート)断面積×100(%)
各部材ごとの鉄筋量の規定は、以下の表の通りです。
鉄筋比(必要な鉄筋の割合) | 規定量 |
柱の主筋量 | 0.8%以上 |
床スラブの鉄筋量 | 0.4%以上 |
梁端部の引張鉄筋比 | 0.4%以上 |
壁のせん断補強筋比 | 0.25%以上 |
柱・梁のせん断補強筋比 | 0.2%以上 |
また建物の規模ごとに、1㎥あたりの鉄筋の使用量として大まかですが分類したものがこちらになります。
基礎 | 柱や梁など | |
住宅建築 | 0.1~0.3t/㎥ | 0.2~0.5t/㎥ |
商業ビルやオフィスビル | 0.3~0.5t/㎥ | 0.4~0.8 t/㎥ |
高層建築物 | 0.5~1t/㎥ | 0.8~1.5 t/㎥ |
鉄筋のかぶりが重要
鉄筋とコンクリートを一体とするため・鉄筋の保護のためには、鉄筋がコンクリートにある程度の深さで入っている必要があります。鉄筋がコンクリートの内部に埋め込まれる深さのことを、かぶり(厚さ)と言います。
かぶり厚さ=コンクリート表面から鉄筋表面までの最短距離
建築基準法においては、各部材ごとに鉄筋に対するコンクリートのかぶり厚さが規定されています。
耐力壁以外の壁、床 | 20㎜以上 |
耐力壁、柱、梁 | 30㎜以上 |
直接土に接する壁、柱、床、梁、布基礎の立上り部分 | 40㎜以上 |
基礎(布基礎の立上り部分を除く。) | 60㎜以上 |
かぶり厚さが大きすぎると無筋コンクリートの部分が大きくなり、鉄筋の拘束力が弱まることで、ひび割れが生じやすくなります。また、構造力学上、設計で想定した耐力よりも建物の耐力が低下してしまう恐れがあります。
そのため、日本建築学会では、かぶりの最大値についても規定があります。票の値を超える場合には適切な補強が必要となります。
部材の上方・側方 | 100㎜ |
下方 | 80㎜ |
住宅基礎の鉄筋使用の歴史
最後に、一般木造住宅において、いつからコンクリートに鉄筋を入れるようになったかを建築基準法の変遷をもとに説明します。
- 旧耐震基準1971年(昭和46年)建築基準法改正
それまで一般的だった独立基礎から、コンクリート造または鉄筋コンクリート造の布基礎とすることとなった。この時点では、鉄筋の使用は必須ではない
- 昭和55年(1980年)頃住宅金融公庫(現:住宅金融支援機構)仕様
住宅ローンを適用するにあたり、公庫仕様に適合させるため、鉄筋コンクリート基礎が一般化し始めた
- 新耐震基準1981年(昭和56年)建築基準法改正
壁量の増加や筋かい・接合部に関して耐震基準の見直しがされたが、基礎コンクリートの鉄筋の有無に関しては、設計者の判断に委ねられていた
- 2000年基準建築基準法改正
平成7年(1995年)に起きた阪神・淡路大震災を受けて、基礎コンクリートに鉄筋の使用が義務化された
鉄筋の使用が義務化されたのは、つい2000年の改正時のことであり、つい20年余り前のことです。
新耐震基準で建てられた住宅あっても2000年6月以前に建てられた住宅に関しては、鉄筋の使用が必須ではないため、グレーゾーンと考えるほうが無難でしょう。
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