前回の記事では、コンクリート主任技士試験の小論文について、傾向や対策について説明しました。今回の記事は、小論文解答の参考例について説明していきます。
今年も昨年度同様の試験内容だと想定すると、
これらを踏まえて今回の記事では、
- 論文や報告書などを書き慣れていない人
- 論文の構成が上手くいかない人
- 参考書を読んでも分からない人
に向けて、課題の対策について解説します。
なお、あくまで個人の見解・予想という事を忘れずに。
はじめにフォーマット(文章構成)を作ろう
論文や報告書の記述に慣れていない人は、
- 文章の組み立てに迷う
- 書いていくうちに手が止まる
- 途中まで書いたのに書き直す
- 書いてる途中で趣旨が変わる
ということがあります。
3.0時間という短い時間で択一式と論文を書ききるには、手戻りは避けねばなりません。
主任技士の小論文課題は出題されるテーマが予想でき、フォーマットの準備がしやすい試験です。あらかじめフォーマットを作っておき、そのフォーマットに沿って記述するのが有効でしょう。
また文字数の指定に対応できるように、フォーマットはキーワードの優先度も考慮しておくと、柔軟に対応できます。
文章の構成は、3部構成が良い
文章の構成は「起承転結」が良いとされていますが、小論文では簡潔に記述する事が必要なため
- 序論…現状の課題や技術的知識
- 本文…現在の取組みや考え
- 結論…今後の更なる取組みやテーマの解決策
とするのが良いでしょう。年度によっては、
- 序論+本文…技術的知識と業務
- 本文+結論…業務と今後の展望
のパターンで出題される場合もありますが、フォーマットで想定した内容はそのまま活かせます。
文体は、簡潔で明確に書くこと
基本的なポイントとして、以下のことに気を付けてください。
- 曖昧さは多用せず「~である。」
- 一文を簡潔に短くする。
- 論文の中で名称は統一する。
- 主語・述語の係り受けを明確にする。
読み手が意味を迷うことがないように、短く簡潔で明確に書くことが求められます。
また、統計量や規格№など「正確な数字」を記述する事によって、良い印象を与えられるため積極的に記述していきましょう。
テーマごとのキーワードと文章構成
フォーマットを作成するにあたり、テーマごとにキーワードと文章構成のサンプルを解説します。
なお、例文・解答例にならないよう、あえて短文で書き連ねて解説します。
テーマ1「環境負荷低減」
環境負荷低減に関するキーワードから確認しましょう。
環境負荷低減で記述をする場合、
- コンクリートの製造過程で発生する産業廃棄物の抑制・再利用
- 他業種から出た副産物の利用・解体コンクリートの再利用
のどちらかをメインに考えていきます。
- は「残コン・戻りコン」「スラッジ水・回収骨材」など、生コン製造で発生するもの
- は「高炉スラグ・フライアッシュ・スラグ骨材」などの副産物、解体コンクリートからの「再生骨材」など、生コン製造以外で発生するもの
また、どちらも温室効果ガスの削減が関連しています、付け加えて記述するのが良いでしょう。
温室効果ガスの削減をメインとするなら、セメントの代替として副産物の利用と回収骨材の再利用が一番スムーズな流れになると思います。
副産物=廃棄物というイメージが定着しているのか、再利用・再生利用というと購入者の承諾が難しいというのが現状です。
「税制面での優遇措置」など、購入者側にもメリットのある仕組み作りが利用促進へつながるかもしれませんね。
序論~テーマが抱える現状の課題や技術的知識~
持続可能な社会の構築が求められており、循環型社会の実現・地球温暖化対策などの取組みが必要。
スラッジ水・回収骨材の利活用が課題。
JISに適合した材料であるが、使用できず産業廃棄物として処分されている。有効利用により、廃棄物の削減・天然資源の保護につながる。
本文~序論で述べた事に対する現在の取組みや考え~
回収骨材の使用方法はA法5%・B法20%以下、仕様方法や置換率を配合計画書・納入書に記載。固結防止・置換率に注意。
スラッジ水の使用方法は、固形分率3%以下。安定剤の使用方法や濃度管理に注意。
利用促進が課題で、使用方法や使用量の管理データを公開、購入者の理解を促す。「税制面での優遇措置」など、購入者側にも使用するメリットを設けることが必要。
結論~序論・本文を踏まえて今後の更なる取組みやテーマの解決策~
データの蓄積によって使用量の拡大を目指す。回収骨材の利用は、廃棄物の削減・天然資源の保護だけでなく、採掘・輸送に伴う温室効果ガスの削減にもなる。
さらに、JISに適合した副産物の利用による温室効果ガスの削減など、更なる環境負荷低減に取り組む。
テーマ2「耐久性の向上」
耐久性の向上に関するキーワードから確認しましょう。
耐久性の向上に関する現状には次のような背景があります。
- 少子高齢化による税収・担い手の減少とインフラの維持管理・更新費用の増大
- 激甚化する自然災害対策として、インフラの整備・強化
こういった点から、耐久性の向上が望まれています。
さらにインフラの老朽化による更新だけでなく、早期劣化も課題となっています。
序論~テーマが抱える現状の課題や技術的知識~
相次ぐ自然災害を受け国土強靭化が求められている。災害対策や老朽化への対応など公共投資へのニーズが高まっている。
一方、少子高齢化により税収が減少、建設事業費も縮小せざるを得ない。結果としてライフサイクルコストを最小する必要がある、そのためにコンクリートの耐久性を向上すること。
コンクリートの劣化は物理的作用と化学的作用がある。構造物の使用目的や環境作用を把握し、適切な材料選定・配合設計とする。
本文~序論で述べた事に対する、現在の取組みや考え~
適切な材料選定(塩分・ASRなど)・環境作用を考慮した配合条件の設定と配合設計・密実な構造体とするためのワーカブルなコンクリートの供給。
材料の品質変動や単位水量など品質管理の徹底。
結論~序論・本文を踏まえて、今後の更なる取組みやテーマの解決策~
劣化作用は複合的であり、特定の環境下においては早期劣化が問題となっている。そのため耐久性に関してさらにデータの蓄積が必要。
また、持続可能な社会の構築が求められているため、コンクリートの耐久性を確保した上で副産物の積極利用を行い、環境負荷低減を目指す。
生産性の向上
生産性の向上に関するキーワードから確認しましょう。
このテーマは、コンクリート分野で記述するとやや説得力が乏しくなりがちなので注意が必要です。
生産性向上と言えば、iコンストラクションがすぐに浮かぶと思いますが、iコンストラクションは建設生産システム全体の生産性の話であり、コンクリートに直結する部分はごく一部です。
コンクリート分野で記述する場合、省力化と施工性に関する技術が妥当なキーワードでしょう。
序論~テーマが抱える現状の課題や技術的知識~
少子高齢化により労働力不足が顕在化しはじめた。一方、社会インフラを担うコンクリートには高い耐久性と品質の確保が求められている。
生産性を向上し、少ない労働力で安定した品質のコンクリートを供給できる体制作りが必要である。
JIS A 5308・JIS A 1011に適合した製造・管理を行っている。労働力の確保が困難となる予想であり、品質の確保を前提とした上で、検査・管理の省略化・自動化、管理システムの電子化が必要となる。
本文~序論で述べた事に対する、現在の取組みや考え~
JISではコンクリートの製造に対して、原材料の受入れから製品検査まで、様々な検査を求めている。表面水率試験・動荷重検査・目視検査・容積検査・IT技術を活用した検査の省略化・自動化・書類の電子化
結論~序論・本文を踏まえて、今後の更なる取組みやテーマの解決策~
品質確保を前提として省略化・自動化を推進するとともに、書類や管理データの電子化・クラウド化を進めることで、生産性だけでなくトレーサビリティーを確保することで省略化への理解を促す。
JIS A 5308の普通コンクリートにスランプフローが追加され、施工性向上による生産性の向上にも対応する。
新しい技術
新しい技術に関するキーワードから確認しましょう。
技術的な情報に関してはすぐに見つかるので、各々のつながりと要点のみ説明します。
低炭素コンクリート
背景として温室効果ガスの抑制による環境負荷低減。セメントの代替として主に高炉スラグを大量利用する。
中性化に対する抵抗性が低下するため、地下躯体や無筋構造物など適用範囲が限られている。結合材中のセメント量が少ないため初期強度が低い、断熱温度上昇量は有利に。
強度発現が遅いので工事サイクルに余裕が必要・中性化に対する抵抗性を付与するような材料・工法に期待。
超低収縮コンクリート
低発熱セメントと石灰骨材に収縮低減剤、膨張材、収縮低減型高性能AE減水剤を使用。JISでは、2020年にコンクリート用収縮低減剤が制定されたばかりであり、今後利用の拡大が見込まれる。
配合設計において収縮低減率の設定や材料の組み合わせによる効果の確認、管理方法など、標準化に向けた取り組みが必要。
高流動・中流動コンクリート
生産性向上の一環として施工性の向上が背景。2019年のJIS A 5308の改正により、普通コンクリートにスランプフローで管理するコンクリートの区分が追加された。
コンクリートに材料分離抵抗性を付与する増粘剤一液型の高性能AE減水剤が新たな技術。粉体量を増やさずとも高流動・中流動コンクリートが製造できる。
コストダウン・製造管理の簡略化など、従来の高流動コンクリートよりも優れている。
1DAY PAVE
耐久性の向上・生産性の向上が背景。正式には、早期交通開放型コンクリート舗装という。
コンクリート舗装と違い養生期間が1日。ライフサイクルコストはアスファルトに比べ低い。早強ポルトランドセメントを使用したW/C35%程度の配合が一般的。
スランプの大きいコンクリートのため人力施工が可能。小規模舗装にも適用できる。
以上、とりとめもなく書きましたが、キーワードの選定をよく考えれば色々と応用が利きます。
例えば低炭素コンクリートは、環境負荷低減としても新技術としても記述できますし、耐久性の向上でも記述は可能です。(混和材は、緻密な組織を形成するため化学的抵抗性を向上させる。また、単位水量の低減・流動性の増大など密実な構造体になる)
まずは、出題されているテーマの意味を理解し、テーマで求められている記述の方向性を見定めましょう。
過去問の勉強で成果が出ないときは
択一問題も含めて、過去問だけで勉強していてもなかなか受からないという方に。
日本コンクリート工学会が発行している「コンクリート技術の要点」。この本を自分が得意な分野から読み進める事をオススメします。
過去問を勉強だけでは、知識と知識の繋がりを作ることが難しく、問題のパターンが変わっただけで対応できないということがあります。
過去問の解説で理解出来ない部分を、「コンクリート技術の要点」を辞書代わりに勉強してみてください。
コメント