鉄筋コンクリート構造物の疲労とは、荷重を繰り返し受ける事によって破壊に至る現象を言います。
一般に構造物は、地震などの応力に耐えられるよう構造計算によって材料(鉄筋・コンクリート)強度が決められているため、許容応力度以下の荷重では破壊しないものとしています。
ところが、繰り返し荷重を受ける場合では、鉄筋・コンクリートが持つ強度よりも小さいレベルの荷重で、破壊に至ることがあります。
小さいレベルの荷重を繰り返し受けて、構造物にダメージが蓄積されていき破壊に至ることを「疲労破壊」と呼んでいます。
この記事では、鉄筋コンクリート構造物の疲労破壊について説明します。
鉄筋コンクリートの疲労とは?
疲労破壊は、繰り返し作用する構造物・部材で起こる劣化のため、活荷重が作用する鉄道橋や道路橋、波浪作用を受ける海洋構造物などの土木構造物で問題となり、建築構造物では問題となるケースはあまりありません。
鉄筋コンクリートは「鉄筋」と「コンクリート」の複合材料のため、疲労破壊を考える場合は、
に分けて考えます。
また作用荷重や部材特性から、構造物の種類によって疲労破壊の対象が異なります。
繰り返し応力の大きさと破壊に至るまでの回数は、おおむね直線関係が成立するとされていて、繰り返し応力が大きいほど少ない回数で疲労破壊に至ります。この直線関係を疲労寿命と呼びます。
疲労破壊は繰り返し応力の大きさに依存し、応力がある範囲以下の場合、繰り返し回数が無限に作用しても疲労破壊が起こらない=無限回の応力に耐えられる限界を「疲労限・疲労限度」などと呼びます。
コンクリートの疲労破壊のメカニズム
粗骨材とマトリックス相(セメントペースト)の付着力の低下や、応力集中による微細ひび割れの発生~伝播により、有効部材断面積が減少することで起こるとされています。
さらに、コンクリートが湿潤状態にある場合、水の移動によるセメント水和物(水酸化カルシウムなど)の溶出の影響も加わります。
コンクリートは複合材料であり、応力状態が平滑でないため、繰り返し回数が1000万回の範囲内においては、疲労限度が今のところ確認されていません。そのためコンクリートの疲労限度は、一般に200万回の繰り返し応力での疲労強度を使用し、疲労強度は性的強度の55~65%程度とされています。
鉄筋の疲労破壊のメカニズム
異形鉄筋における「ふし」や鋼材表面の傷によって応力の集中が生じ、局所的に応力が高くなり亀裂が発生します。
鉄筋の疲労には、形状の影響が見て取れ、ふしの間隔を狭めると応力集中によって疲労破断が起こりやすく、直径を大きくするに連れて疲労強度は低下していきます。
鋼材の場合、コンクリートと違い疲労限度があり、鋼材の疲労限度(疲労強度)は、引張り強さのおおむね50~60%とされています。
鉄筋とコンクリートの付着部分の疲労破壊のメカニズム
鉄筋とコンクリートの界面において、コンクリートのひずみが蓄積すると、鉄筋とコンクリートのすべりが増大し、ひび割れが発生することで疲労破壊を起こします。
鉄筋とコンクリートの付着が弱まると、コンクリートが引張応力を負担しなくなるため、部材のたわみやひび割れが増大し、部材耐力が低下します。また、鉄筋の負担が増加するため、疲労寿命が短くなると考えられます。
付着疲労には、鉄筋表面の形状が影響を及ぼし、ふしの高さが低かったり、鉄筋の母線とふしの角度が小さい、ふしの取付部が滑らかな場合には、付着の悪化による鉄筋の疲労破断が起こりやすくなります。
鉄筋とコンクリートの疲労破壊・疲労強度の計算方法
コンクリート標準示方書(土木学会)では、設計疲労強度・疲労寿命の計算式が規定されています。ここで、土木学会式を用いて、それぞれの計算方法の例を説明します。
コンクリートの疲労強度の求め方・計算例
コンクリートの設計強度=24N/㎟、永久荷重=0N/㎟である場合、疲労寿命100万回(106)に対する疲労強度を求めてみます。
永久荷重とは、自重(死荷重)や土圧のような荷重の変動が極めて小さいものを言います。
設計疲労強度frd= | k1f×fd(1-αp/ fd)(1-logN/K) |
k1f= | 定数0.85(圧縮疲労強度の場合)・1.0(引張疲労強度の場合) |
fd = | コンクリート強度(設計強度/材料係数1.3) |
αp= | 永久荷重 |
logN= | 繰り返し回数 |
K= | 定数17(一般の場合)・10(水中の場合) |
コンクリート強度fd = | 設計強度/材料係数1.3 |
= | 24/1.3 |
= | 18.5 |
設計疲労強度frd= | k1f×fd(1-αp/ fd)(1-logN/K) |
= | 0.85×18.5(1-0/18.5)×(1-6/17) |
= | 10.2N/㎟ |
水で飽和されている場合 | |
設計疲労強度frd= | k1f×fd(1-αp/ fd)(1-logN/K) |
= | 0.85×18.5(1-0/18.5)×(1-6/10) |
= | 6.3N/㎟ |
コンクリートの疲労寿命の求め方・計算例
疲労寿命の計算では上記の式を変換することで求めることができます。
コンクリートの設計強度=24N/㎟、永久荷重=0N/㎟である場合、繰り返し応力10N/㎟に対する疲労寿命Nを求めてみます。設計疲労強度frd=繰り返し応力とし計算します。
疲労寿命logN= | K(1-frd/(k1f・fd(1-αp/ fd))) |
= | 17(1-10/(0.85×18.5(1-0/18.5) )) |
= | 6.19 |
N= | 106.19 |
= | 1.55×105回 (155万回) |
鉄筋の疲労強度の求め方・計算例
異形棒鋼(SD390、D25)において、引張強度=560N/㎟・永久荷重=150N/㎟である場合、疲労寿命100万回(106)に対する疲労強度を求めてみます。
設計疲労強度fsrd= | 190×10α/Nk×(1-αsp/ fud)/rs |
α= | 定数* |
N= | 疲労寿命 |
k= | 定数0.12 |
αsp= | 永久荷重 |
fud= | 鉄筋強度(引張強度/材料係数1.05) |
rs= | 定数1.05 |
定数*α= | K0f(0.81-0.003φ) |
φ= | 鉄筋の直径 |
K0f= | 鉄筋のふしの形状に関する係数、一般に1.0 |
α= | 1.0(0.81-0.003×25) |
= | 0.735 |
鉄筋強度fud= | 560/1.05 |
= | 533 |
設計疲労強度fsrd= | 190×10α/Nk×(1-αsp/ fud)/rs |
= | 190×100.735/(106)0.12×(1-150/533)/1.05 |
= | 137N/㎟ |
鉄筋の疲労寿命の求め方・計算例
疲労寿命の計算では上記の式を変換することで求めることができます。
異形棒鋼(SD390、D25)において、引張強度=560N/㎟・永久荷重=150N/㎟である場合、繰り返し応力50N/㎟に対する疲労寿命Nを求めてみます。設計疲労強度frd=繰り返し応力とし計算します。
疲労寿命N= | (190×10α/fsrd(1-αsp/ fud) /rs)1/k |
= | (190×100.735/50(1-150/533) /1.05)1/0.12 |
= | 3.51×108回 |
コンクリートのすり減り・摩耗とは?
物質表面の相対運動によって、作用面からコンクリートが損失することを摩耗と言います。つまり、摩擦によってコンクリートの断面がすり減っていくことで、疲労の一種と言えます。
また、摩耗と同じ意味で「すり減り」という用語を使用する場合もあります。
コンクリートの摩耗には次のようなものが挙げられます。
- 車両走行による摩耗
- 人や物の移動による摩耗
- 水流による摩耗
摩耗は物質同士の相対運動の種類によっても区別することができます。
摩耗の進行と対処法には次の対策が挙げられます。
- コンクリート表層のモルタル部分が摩耗
- コンクリート内部の粗骨材が表面に露出し、粗骨材が摩耗
- 粗骨材が剥落し、断面欠損となる
摩耗に対する抵抗性を確保するためには、「W/Cを小さくすること・すり減りに強い骨材を使用すること」が効果的です。また表面を平滑に仕上げたり、湿潤養生を入念に行うことで、表面の摩擦抵抗を小さくすることも重要です。
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