化学的侵食とは、コンクリートが周囲のガスや酸による化学的作用を受ける事によって、ひび割れや断面減少を起こす、「劣化ひび割れ」の一種です。
コンクリートは比較的化学作用に強く安定的な硬化体で、一般的な環境下において、化学的侵食がコンクリートにとって問題となることは多くはありませんが、次のような場合、化学的侵食を受けます。
- 酸性土壌の温泉地・酸性河川流域にある構造物・工場などの特殊な環境下では、化学作用によってコンクリートが侵食されます。
- 一般環境下で特別な劣化因子がなくても、長い年月が経過すると、老化・風化と呼ばれる成分溶出が起こります。
この記事では、コンクリートの化学的侵食の内容や劣化機構・劣化因子について、また、老化・風化との違いなどについて説明します。
コンクリートの化学的侵食とはどんな劣化なのか?
コンクリートはセメントを結合材として硬化したもので、セメントと水が反応して出来た水和生成物によって結合=硬化しています。
化学的侵食では、セメントの水和生成物と侵食を起こす化学物質が反応することで、「分解・溶出・膨張」を起こしコンクリートのひび割れやはく落、溶解、耐力の低下などを起こします。
コンクリートの化学的侵食は、主に次の三種類に分類することが出来ます。
- 水和生成物が可溶性物質に変化し、コンクリートを分解・多孔質化する。
- 水和生成物が新たに膨張性化合物を生成し、コンクリートにひび割れを生じさせる。
- 水和生成物が水と接触することにより溶解し、コンクリートが変質・多孔質化する。
この中で、
- 1・2が、劣化を促進するような劣化因子による化学的侵食
- 3は、一般的な環境下で徐々にコンクリートが衰えていく風化・老化
と呼ばれる劣化になります。
コンクリートの化学的侵食の形態や化学反応とは
化学的侵食では、水和反応によって生成された水酸化カルシウム(Ca(OH)2)やカルシウムシリケート水和物 (3CaO・2Si02・3H20) などが、反応性の劣化因子によって、カルシウム塩や二水石膏となり、分解・溶出されます。
また、劣化因子との反応によりエトリンガイトやナトリウム塩・マグネシウム塩を生成し、膨張圧によりコンクリートを破壊します。
コンクリートを侵食する劣化因子の例がこちらになります。
酸類 | 酸類 硫酸・塩酸・硝酸・ギ酸・酢酸・乳酸 |
塩類 | 硫酸塩・カルシウム塩化物、マグネシウム塩化物 |
油類 | 大豆油・魚油・ピーナッツ油・牛脂・ラード |
腐食性ガス | 塩化水素・硫化水素・二酸化硫黄・フッ化水素 |
油類は、脂肪酸を含む動植物性油は侵食しますが、ガソリンなどの鉱物油は影響しません。
また、コンクリート自身が強アルカリであるため、アルカリに対する抵抗力は大きいですが、濃度の高い水酸化ナトリウム溶液では、結晶圧による浸食が起こります。
酸類による浸食の場合
酸との反応によって、水酸化カルシウムは水とカルシウムに分解されます。
Ca(OH)2+2H+ → Ca2++H2O
カルシウムイオンは酸との反応でカルシウム塩を生成し、酸に溶解・溶出されます。その他の水和物も同様に分解し、けい酸やアルミン酸はゲル状となり酸に溶出します。
また、硫酸などの場合は二水せっこうを生成し、さらにアルミン酸三カルシウムとの反応によってエトリンガイトを生成し、激しい膨張を引き起こします。
各種油類の侵食も、動植物性の油は脂肪酸を含む場合、酸として作用するため同様の侵食が生じます。
塩類による浸食の場合
水酸化カルシウムと化合し塩化カルシウムを生成し溶出します。また、二水せっこうを生成、アルミン酸三カルシウムとの反応によりエトリンガイトを生成し、激しい膨張を引き起こします。
さらに、ナトリウム塩やマグネシウム塩の結晶析出時の圧力によっても膨張破壊を起こします。
腐食性ガスの場合
塩化水素、二酸化硫黄などの気体は、水に溶けて酸を生成しコンクリートを侵食します。
硫化水素は、硫黄酸化菌などの作用を受け硫酸となり酸を侵食する場合と、ガス状のまま水に溶解し、カルシウム塩を生成し溶出する場合とがあります。
風化・老化の場合
コンクリートの水和生成物は、難溶性ではありますが不溶性ではありません。そのため、水と長期間接していると、コンクリートの成分が水に溶出します。この現象を風化や老化と呼びます。
コンクリートの風化は、溶解度が最も大きい水酸化カルシウム(Ca(OH)2)の溶出によって起こり、その後、カルシウムシリケート水和物が溶解し、内部組織が空疎化していきます。
- 液相内の水酸化カルシウムが溶出
- 健全層固相内の水酸化カルシウムが分解され、液相に溶出
- 遷移層固相内の水酸化カルシウムが消失し、カルシウムシリケート水和物が溶解
- 劣化層カルシウムシリケート水和物中のCaOが溶出しCa/Si比が低下し脆弱化
コンクリートの風化は、水の硬度に大きく影響を受け、硬度の低い軟水に接するほど、溶出しやすくなります。
水流の影響では、地下水など構造物の周囲に滞留している水に溶出する場合、溶出が進めば、コンクリート内部と地下水の濃度差が小さくなるため、溶出は徐々に少なくなります。
一方、河川など水の流れが大きい場合、常に濃度の低い水が接触するため、溶出のスピードが衰えず、成分溶出が大きくなります。
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