部材内部の鋼材・配管などの埋設物や空洞について、その有無や位置を特定する方法として、次のような手法があります。
- 電磁誘導法
- 電磁波レーダ法
- X線透過撮影法
構造物の劣化診断・調査で、構造物を破壊せずに内部状況の情報を得る方法を非破壊調査と言います。この記事では、構造物を破壊せずに内部の鋼材やその他の埋設物の情報を得る、非破壊調査について説明します。
電磁誘導法
電磁誘導法は、電流を通して作られた磁束の乱れを測定する探査方法で、金属や磁性体を調査対象とし、以下の様な調査に使われます。
- 鉄筋探査(鉄筋径・鉄筋位置・かぶり厚さ)
- 鉄筋以外の埋設物(磁性体)の探査
試験コイルに交流電流を流して出来た磁界内に、磁束に影響を与える物質(=鉄筋)が存在すると、磁束の変化により起電力が変化します。
この磁束の変化による起電力の動きを信号として読み取り、鉄筋を探査します。
そのため、鉄筋径の推定ができる、コンクリート内部に空隙・豆板などがあっても鉄筋位置の推定ができるといった特色があります。
電磁誘導法の特徴
- かぶり厚さが分かっている場合は、比較的正確に鉄筋径が測定できる
- 空洞・豆板など内部に欠陥があっても測定ができる
- 鉄筋径とかぶり厚さを同時に測定することができる
- 磁束に影響を及ぼさない仕上げ材なら、影響を受けない
鉄筋径は径の大きいものほど精度が良く、かぶり厚さは薄いものほど精度良く測定できます。
磁束は指向性が弱いため、配筋ピッチが密な場合、正確な測定が難しくなります。ダブル配筋の場合は表面側の鉄筋しか検出することができません。
電磁誘導法の適用範囲・精度は、深さ方向で100㎜以内・鉄筋D10~D38を対象とし、表の通りとなります。
測定対象 | 測定精度 |
鉄筋位置 | かぶり厚さ50㎜未満で±5㎜・50㎜以上でかぶり厚さの10%以内 |
かぶり厚さ | 深さ40㎜未満で±2㎜以内、深さ40㎜以上で±5%以内 |
電磁誘導法の測定方法
電磁誘導法は、プローブと呼ばれる検出器をコンクリート表面で動かし測定します。
試験プローブは鉄筋と直交する方向(鉄筋をまたぐように)で動かします。
鉄筋の真上に来た時が鉄筋との距離が最短になるため、かぶり厚さの表示が小さくなり、離れると表示が大きくなります。
この操作を、縦方向と横方向に碁盤の目のようにすると、鉄筋の中心位置が分かることから、鉄筋位置や鉄筋径を測定します。
電磁波レーダ法
電磁波レーダは、電磁波をコンクリート内部に向かって放射し、跳ね返ってきた反射波を読み取って測定し、以下の様な調査に使われます。
- 部材厚
- 空洞
- かぶり厚さ
- 埋設物の調査
内部に、空洞や鉄筋などコンクリートと電気的性質が違う物体があると、その境界面で電磁波が反射します。
そのため、鉄筋・鉄骨・埋設管などの埋設物や部材厚、空洞などの平面位置や深さ方向の測定ができます。
電磁波レーダ法の特徴
内部に空洞や鉄筋などのコンクリートと電気的性質が違う物体があると、その境界面で電磁波が反射します。
- 空洞のようにコンクリートより密度が小さい場合、逆位相の反射
- 鉄筋のようにコンクリートより密度が大きい場合、同位相の反射
放射してから反射波が届くまでの時間を計算し、物体の位置を求めることができます。
D=VT/2 |
D:物体までの距離 |
V:コンクリート中の電磁波の速度 |
T:放射してから反射波が届くまでの時間 |
ここで、V:コンクリート中の電磁波の速度は、比誘電率の影響を受けます。コンクリートの含水状態によって、電磁波の伝播速度が変動することに注意が必要です。
電磁波は、使用する周波数によって特性が変わるため、調査の目的にあった周波数で調査を行います。
低周波 | 減衰が小さい(探査距離が長い) | 分解能が上がる(小さい物体は探査できない) |
高周波 | 減衰が大きい(探査距離が短い) | 分解能が下がる(小さい物体を探査できる) |
- 部材厚・空洞調査…400MHz~1GHz
- 埋設物調査…800 MHz~3 GHz
電磁波レーダの測定精度
1.深さ方向の測定は、電磁波の伝播速度の誤差が、精度に大きく影響します。
伝播速度は、コンクリートの比誘電率=含水状態によって変動するため、必要に応じて比誘電率を推定sする必要があり、以下のような方法があります。
- 微破壊検証法
- 直接波法
- ワイドアングル法
- カーブフィッティング法
深さ方向の誤差は、次のうち、精度の低い方になります。
- ±(5㎜+かぶり厚さの0.1倍)以内
- ±5.0%以内
2.平面的位置は、分解能と読み取り誤差によって決まります。
分解能はアンテナの大きさによって決まるため、数種類のアンテナを選択する必要があり、平面方向の誤差は、次のどちらかになります。
- ±10㎜
- ±1.0%以内
電磁波の反射波を利用するため、上記の測定精度は、もっとも表面にある埋設物にのみ有効です。
X線透過撮影法
医療・工業で一般的に広く使われているものと同様、内部状況を実態に近い状態で確認することができ、鉄筋や配管などの埋設物や空洞・ひび割れの検出に使われます。
建築物 | 壁・床 | 鉄筋や埋設物の位置、版厚 |
土木構造物 | 橋梁・床板 | PCのシース無い・床板の空洞 |
X線装置の種類には以下の二つがあります。
- 高エネルギー型
- 低エネルギー型
安全管理上の制約から、現場で使用されるのは低エネルギー型に限定されています。
X線透過撮影法の特徴
X線は物体を通過する過程で減衰(弱くなる)するため、透過してきたX線量の違いが、フィルム上に色の濃淡として写し出されます。
- 透過量が多いほど黒い
- 透過量が少ないほど白い
また、X線透過撮影では、物体の輪郭や相対的な位置関係は分かりますが、物体の表面の情報は得られません。
X線透過量の違いは、物体の密度で決まります。コンクリートを基準とした場合、
- コンクリートは、灰色
- 鉄筋など密度の大きいものは、白
- 空洞やひび割れなど密度が小さいものは、黒
X線透過撮影法の適用限界は、対象部材の大きさ(厚さ)によって決まります。
透過したX線が写し出す陰影が読み取れる程度、つまり部材厚が大きくなると、透過するX線が弱すぎて、透過写真として色の濃淡が読み取れなくなります。
- 高エネルギー型…1mを超えても可能
- 低エネルギー型…500㎜程度が限界
実務で使用できるのは低エネルギー型のみですので、作業効率・精度を考慮すると350㎜程度までが目安となります。
部材厚が大きくなると感度が低く、撮影時間が極端に長くなります。また、部材厚が大きくなるほど、写真の陰影が低下するため、読取り誤差も大きくなります。
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