セメントは、石灰石や粘土などを1450℃の高温で焼成してできるクリンカーを微粉砕して作られます。
セメントの元であるクリンカーは、主に4種類の化合物からできていて、化合物それぞれが違った特徴を持っています。
4種類の化合物ごとに水和反応と水和生成物に違いがあり、化合物の含有量を変えることで、各種セメントの特徴を作り出しています。
セメントは空隙を埋めることで強度を発現している
セメントが水と接触し起こす反応を水和反応と言います。
水和反応によって新たに析出した物質を水和生成物と言い、水和生成物がセメント粒子間の隙間を埋めていくことで、強度が発現していきます。
セメントと水を混ぜた直後は、セメント粒子が水に包まれた様な状態です。水色のひし形がセメント粒子で、白い部分が水。セメントの周りにあるのが水和生成物になります。
- 左の絵セメントの成分が周囲の水に溶け出し、数分後には水和物が生成されます。
- 中の絵しばらく水和反応はゆるやかに進み、数時間後には、水和物同士が絡み合い連続した組織となり、流動性が無くなります。この時点を凝結と呼びます。
- 右の絵さらに時間が経過すると、セメント粒子間の空隙が水和物で満たされて硬化が進み強度が発現していきます。
凝結とは、モルタル・コンクリートなどが流動性を失い固体に変化すること。変形することなく形を保つが、強度の発現はしていない状態。
水和反応によってセメントと水は失われていき、そのスペースを水和生成物が埋めることで強度が発現していくため、粘土のように乾燥することで固まる訳ではありません。
強度発現の主役はエーライト(C3S) とビーライト(C2S)
下の表は、4種類の化合物の名称と分子式の表です。
鉱物名称(略号) | 化合物組成名称 | 分子式 |
エーライト(C3S) | けい酸三カルシウム | 3CaO・SiO2 |
ビーライト(C2S) | けい酸二カルシウム | 2CaO・SiO2 |
アルミネート相(C3A) | アルミン酸三カルシウム | 3CaO・Al2O3 |
フェライト相(C4AF) | 鉄アルミン酸四カルシウム | 4CaO・Al2O3・Fe2O3 |
このうち、
- エーライト(C3S)+ビーライト(C2S)=80%程度
- アルミネート相(C3A) +フェライト相(C4AF)=20%程度
で構成されています。
アルミネート相とフェライト相は、エーライトとビーライトの隙間を埋めるように存在しているため、両者をまとめて、間隙相とも呼びます。
セメントに水を加えると、この4種類の化合物がそれぞれ反応し、水和物を生成することで強度発現をしていきます。
エトリンガイトの生成
セメントと水が接触した直後から、アルミネート相(C3A)とせっこう(CaSO4・2H2O)が反応しエトリンガイトを生成されます。
アルミネート相(C3A)は水和反応が急激なため、セメントには調整剤としてせっこうが少量混合されています。
アルミネート相+せっこう→ | エトリンガイト |
3CaO・Al2O3+CaSO4・2H2O → | 3CaO・Al2O3・3CaSO4・32H2O |
エトリンガイトとは、水和の初期に析出する針状の水和物。それ自体で強度を発現し、セメント硬化体を膨張させる性質がある。
水酸化カルシウムとけい酸カルシウムの生成
その後、エーライト(C3S)が活発に反応しはじめ、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)が析出され、次に、けい酸カルシウム水和物(C-S-H)が析出する。
エーライト→ | 水酸化カルシウム、けい酸カルシウム水和物 |
3CaO・SiO2+H2O→ | Ca(OH)2 、CaO-SiO2-H2O |
モノサルフェートとアルミン酸カルシウムの生成
③C3SによるC-S-Hの生成から遅れて、①で生成したエトリンガイトと、①で反応せずに残ったC3Aが反応をはじめ、モノサルフェート水和物が生成されていきます。
モノサルフェート水和物によってエトリンガイトが消失すると、アルミネート相(C3A)とフェライト相(C4AF)は、水酸化カルシウムと反応をしはじめ、アルミン酸カルシウム水和物(3CaO・Al2O3・6 H2O)を生成します。
アルミネート相+エトリンガイト→ | モノサルフェート水和物 |
3CaO・Al2O3+3CaO・Al2O3・3CaSO4・32H2O→ | 3CaO・Al2O3・CaSO4・12 H2O |
アルミネート相、フェライト相+水酸化カルシウム→ | アルミン酸カルシウム水和物 |
3CaO・Al2O3+Ca(OH)2→ | 3CaO・Al2O3・6H2O |
4CaO・Al2O3・Fe2O3+Ca(OH)2 → | 3CaO・Al2O3・6H2O |
ビーライトによる水酸化カルシウム、けい酸カルシウムの生成
④ビーライト(C2S)がゆっくりと反応しはじめ、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)とけい酸カルシウム水和物(C-S-H)を析出する。
ビーライト→ | 水酸化カルシウム、けい酸カルシウム水和物 |
2CaO・SiO2+H2O→ | Ca(OH)2 、CaO-SiO2-H2O |
水和反応の流れはこのように進んでいきますが、化合物が順番に水和反応を起こすわけではなく、相互に前後しながら反応していきます。
長期的には、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)とけい酸カルシウム水和物(C-S-H)が、セメント粒子間の隙間を埋め結合力を増すことで、強度を増進します。
鉱物名称(略号) | 強度 | 水和反応速度 | 水 和 熱 | 収 縮 | 化学抵抗性 |
エーライト(C3S) | 28日以内 | 比較的早い | 中 | 中 | 中 |
ビーライト(C2S) | 28日以降 | 遅い | 小 | 小 | 大 |
アルミネート相(C3A) | 1日以内 | 非常に速い | 大 | 大 | 小 |
フェライト相(C4AF) | 関与しない | かなり早い | 小 | 小 | 中 |
各種セメントの特徴は、化合物の割合によってコントロールしています。セメントの規定値について気になる方はこちらの記事をどうぞ。
また化合物の割合以外に、比表面積の値もセメントの物性を左右します。
セメント以外も水和生成物によって硬化する
セメントにはポルトランドセメント以外にも、混和材を混合した混合セメントがあります。
混和材がセメントの化合物とは違った水和反応を起こすことで硬化していきます。
高炉スラグ微粉末
アルカリ性(Ca(OH)2)の刺激により、酸化アルミニウム(Al2O3) ・二酸化けい素(SiO2)から、酸化アルミニウム、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)が溶出する。
それらが水酸化カルシウムと反応することで、カルシウムシリケート水和物(C-S-H)・カルシウムアルミネート水和物(C-A-H)を生成して硬化する。
フライアッシュ・シリカフューム
どちらもポゾラン活性を有する化合物で、水酸化カルシウム(Ca(OH)2) ・二酸化けい素(SiO2)が主に反応し、エトリンガイト、アルミン酸カルシウム水和物、けい酸カルシウム水和物を生成して硬化する。
ポゾランとは、シリカ(二酸化けい素SiO2)や酸化アルミニウム(Al2O3)を多く含む化合物の総称で、水酸化カルシウムと反応して水和物を生成する特徴がある。
膨張材
主成分の生石灰・CSA(カルシウムサルフォアルミネート)が水和反応し、エトリンガイト(3CaO・Al2O3・3CaSO4・32H2O)や水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を生成し、膨張する。
- 石灰系は水酸化カルシウムの板状結晶を生成
- CSA系はエトリンガイトの針状結晶を生成
水和反応から見た、混合セメントの特徴とは
混合セメントに共通する特徴は
- 初期強度が小さく長期強度に優れる
- 化学的抵抗性に優れる
- 中性化に対する抵抗性は劣る
といった事が挙げられますが、水和反応からその理由を見てみましょう。
初期強度が小さく長期強度に優れる
水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を刺激・反応物として水和を起こすため、セメントの水和反応が進みCa(OH)2によるアルカリ性が増してから水和反応を開始します。
そのため、材齢がある程度進んでから強度を発現するため、初期強度の発現が鈍く、長期強度に優れます。
化学的抵抗性に優れる
硫酸マグネシウム(MgSO4)、塩化マグネシウム(MgCl2)などの硫酸塩は、水酸化カルシウムCa(OH)2やC3Aと反応し、エトリンガイトを生成する。エトリンガイトの膨張圧によりひび割れが起こる。
Ca(OH)2を水和に消費する混合セメントは、硫酸塩と反応するCa(OH)2が少なくなるため化学的抵抗性が優れる。
中性化に対する抵抗性は劣る
コンクリートのアルカリ性は、主に水酸化カルシウム(Ca(OH)2)の量に依存しています。
混合セメントは、ポルトランドセメントの絶対量が少ないため、水和によって生成される Ca(OH)2 量が少ない。
更に混和材の水和はCa(OH)2 と反応するため、元々少ない Ca(OH)2 がさらに減少します。そのため中性化に対する抵抗性は低くなりやすい。
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