鉄筋コンクリートはコンクリートと鉄筋を組み合わせた複合材料で、互いの弱点を補い合うことで高い強度と耐久性を有する建設資材です。
日本におけるコンクリートの歴史は、1873年:東京都江東区深川に設立されたセメント工場の登場が幕開けでした。1900年頃には、コンクリートに鉄筋を入れた「鉄筋コンクリート」が構造物に使用され始め、第二次大戦後の1949年、東京コンクリート工業が日本最初の生コンクリート工場(業平橋工場)の製造を開始しました。
これによって鉄筋コンクリートが急速に普及し、高度成長期には大量のインフラ・建造物が建設されました。その後、当初は半永久的と思われていた鉄筋コンクリート構造物に対して、想定していなかった劣化が増え始めました。
コンクリートの劣化とは?劣化の種類や原因
劣化とは、元々持っていた性能が衰えて、機能が低下する現象を言います。
上記の性能が、要求された水準で構造物に備わっていることを明らかにし、必要な期間において維持管理することが、コンクリートの診断に求められています。
コンクリートに何かしらの劣化・欠陥が生じた場合、コンクリートに起こる変化を専門用語では「変状」と言い、コンクリートの変状には、時期別・原因別に3つに大別できます。
- 初期欠陥
- 経年劣化
- 構造的変状
変状は、コンクリートに起きた異常のサインであるため、コンクリート構造物を診断する上で、変状についての基本的な知識が必要となります。
初期欠陥はコンクリートの基本性能を下げる
劣化因子とはコンクリートの劣化を誘発する物質を指し、代表的なものが「水と二酸化炭素」です。
コンクリートの劣化の多くは、水と二酸化炭素が劣化に関わっているため、
水や二酸化炭素が浸透しやすいコンクリートは耐久性に劣る
と言えます。
初期欠陥はコンクリート表層にひび割れや空隙などの弱点をつくり、「水や二酸化炭素の浸入」を促進してしまうため、早急に対処する必要があります。
コンクリートの変状の種類や初期欠陥については、こちらの記事で詳しく説明しています。
コンクリートの劣化について、種類や内容を紹介
コンクリートにおける劣化の原因は様々で、劣化が起こる時期も原因によって違います。また、使用環
コンクリートの初期欠陥の種類と内容、原因と防止対策、補修方法とは?
コンクリートの変状(劣化)は、発生時期や原因によって、大きく分けて以下の様になります。
コンクリートの経年劣化とは
経年劣化とは、年月を経て徐々に劣化が顕在化することを言い、代表的なものがひび割れです。
コンクリートは脆性材料であるため、完全にひび割れを防止することは難しく、鉄筋コンクリート構造物にはひび割れが起こります。
ひび割れの原因には、「材料・性質・施工・環境・構造」など種々の要因がありますが、一般的に次のように分類出来ます。
鉄筋腐食が原因のひび割れ
鉄筋腐食が原因のひび割れは、中性化や塩害により鉄筋が腐食することでサビが発生し、サビによる膨張圧でコンクリートにひび割れが起こります。
コンクリートの内部からひび割れが発生するため、コンクリートの剥離・剥落が起きやすく、中性化ではかぶりの薄いあばら筋・帯筋、塩害では主筋に沿ってひび割れが発生します。ひび割れの発生時点で鉄筋腐食が進行していることが特徴です。
鉄筋腐食が原因のひび割れについては、こちらの記事で詳しく説明しています。
コンクリートの劣化が原因のひび割れ
コンクリートの劣化が原因のひび割れは、アルカリシリカ反応や凍害、化学的浸食などによりコンクリート自体が劣化し、進行性のあるひび割れが起こります。
ひび割れが発生するとともに、コンクリートの組織が緩むため強度低下を生じやすく、鉄筋腐食によるひび割れよりも部材の崩壊を招きやすいひび割れです。
コンクリートの劣化が原因のひび割れについては、こちらの記事で詳しく説明しています。
コンクリートの性質・施工不良によるひび割れ(初期ひび割れ)
コンクリートの性質・施工不良によるひび割れ(初期ひび割れ)とは、マスコンによる温度ひび割れや乾燥収縮、施工中の不具合などによるひび割れですが、コンクリートの劣化が原因のひび割れとは違い、劣化要因が一過性でひび割れに進行性がありません。
コンクリートの性質・施工不良によるひび割れ(初期ひび割れ)については、こちらの記事で詳しく説明しています
コンクリート構造物の初期ひび割れの種類と内容・原因、防止・対策とは
鉄筋コンクリート構造物のひび割れには、発生時期とひび割れのパターン(形状)に固有の特徴があり
ひび割れ以外の経年劣化
ひび割れ以外にも鉄筋コンクリート構造物には、経年劣化によって様々な変状が現れます。
鉄筋コンクリートは高い強度と耐久性を有していますが、年月を経ることで疲労により破壊に至ることがあります。構造物の設計では、想定される応力に対して必要な強度を確保し、コンクリートや鉄筋の強度を決定しています。
そのため、想定を上回る大きな応力を受けない限り、構造物が破壊に至ることはないと思われるかもしれません。ところが、実際には想定よりも小さいレベルの応力であっても、繰り返し応力を受けることにより、鉄筋やコンクリートが疲労し、破壊に至ることを「疲労破壊」と呼んでいます。
鉄筋コンクリートの疲労については、こちらの記事で詳しく説明しています。
劣化調査について、内容や種類・方法とは?
コンクリート構造物の劣化調査では、調査の目的に応じて必要な情報や調査範囲・調査の精度などを選定する必要があります。
コンクリートの変状は時間の経過とともに進行し表面化するため、竣工時(構造物が完成した時点)の状態と調査時点での比較を行います。
元々有していた性能(竣工時の状態)を把握するためや変状の原因を推定するための情報を整理するため、設計図書や施工記録・調査時点までの維持管理記録などの書類調査を行います。
構造物の環境・荷重作用や外観を調査する
コンクリート構造物は同じ性能を有していたとしても、置かれた環境や使用状況の違いによって劣化の進行が大きく異なります。そのため、構造物の環境作用や荷重作用について調査するとともに、外観調査を行い、変状の有無を確認します。
コンクリート構造物の環境調査・外観調査については、こちらの記事で詳しく説明しています。
コンクリート構造物の詳細調査とは
外観調査によって変状・劣化が確認できた場合、劣化原因の裏付けを行うための詳細調査を行います。
詳細調査では、強度やひび割れ・鉄筋腐食など物理調査だけでなく、成分分析や結晶構造の観察など化学調査を行い、劣化原因を特定していきます。
コンクリートの詳細調査
コンクリートの強度は構造物にとってもっとも重要な性能の一つであり、代表的な物理特性であるだけでなく、劣化による物理特性の変化を知る指標となります。
また、強度はコンクリートの配合と深く関連があるだけでなく、耐久性を推定する上でも重要な指標となり、配合を推定することでコンクリートの基本的なポテンシャルを推し量ることが可能です。
硬化コンクリートの強度試験の方法と配合推定については、こちらの記事で詳しく説明しています。
コンクリートの表面に顕在化した変状は、目視調査によって確認することが可能ですが、コンクリート内部のひび割れや剥離、空洞などは、目視調査だけでは難しいのが実情です。
目視によって直接内部の欠陥を確かるには、構造体に穴を開ける・はつりとるなどの処理が必要となりますが、コンクリート構造物の調査では、物理的にダメージを加える破壊調査が可能である場合は少なく、非破壊による調査が求められます。
コンクリートの非破壊試験では下記のような様々な特性値を把握することで、構造体を破壊することなく内部のひび割れや剥離、空洞などを調査することができます。
コンクリートの非破壊調査については、こちらの記事で詳しく説明しています。
コンクリートのひび割れには、「発生位置とひび割れの形状」によって、劣化原因ごとに固有のパターンが存在します。
ひび割れの発生個所と形状から劣化原因を絞り込み、劣化原因別に下記のような特性値を調査することで原因の特定を行います。
劣化原因別の調査方法については、こちらの記事で詳しく説明しています。
構造物の調査では、配筋の状況・鉄筋の径やかぶり厚さ・鉄筋の腐食状況などによって補修や補強の必要性や、構造物の寿命を見積もる重要な要素となります。
また破壊試験の実施においては、非破壊調査での鉄筋探査やその他の埋設物を事前に確認することが必要となります。
鉄筋の非破壊試験や鉄筋の腐食調査については、こちらの記事で詳しく説明しています。